濡れたジャージのまま教室に戻ったら、わたしのバッグのなかのものが、ばらばらに散らばっていた。
 いまは昼休み。お弁当の時間。
 くすくすとした笑い声と、見て見ぬふりをする生徒たち。

 わたしはなにも言わず、床に落ちた教科書やノートを拾い上げる。
 そのとき、なくなっているものに気がついた。
 もしかして……
 あかりの考えることくらい、もうわかってる。

 教室の隅のゴミ箱をのぞいたら、お母さんが作ってくれたわたしのお弁当が、中身をばらばらにされて捨てられていた。
 それにわたしの制服も。

「ひどい……」

 手を伸ばし、お弁当箱と制服を拾う。
 すると背中から、甲高い笑い声が響いてきた。

「なにあの子。ゴミあさってるし。きったなーい」

 あかりの声だ。
 わたしはぎゅっとくちびるを噛む。
 悔しい。なんでわたしがこんな思いをしなきゃならないの?
 そのときわたしの目の前に、コンビニの袋が差しだされた。

「これ食べな」

 ハッと顔を上げると、幸野がわたしを見ていた。

「どうして……」

 幸野はほんの少し口元をゆるめ、教科書やノートの散らばったわたしの席に行く。
 そこにしゃがんで英語のノートを拾うと、中身をパラパラっとめくった。
 あれは……昨日落書きをされたノート。

 立ち上がった幸野はそのノートを持って、お弁当を食べているあかりたちのもとへ、まっすぐ向かう。
 そしてにっこり笑顔を見せて言った。