「なにこれ? 誰の?」
「男子のじゃない?」
「なんで莉緒がこんなの持ってるの?」

 固まったわたしの耳に、あかりの声が聞こえる。

「悟のでしょ? 昨日も仲良く、手つないで帰ってたもんね」

 まわりのみんなが「えー?」っと声を上げる。
 あかりは優奈の手から幸野のブレザーを取り上げると、それを見ながら言った。

「つきあってるの? 悟と」

 つめたい声。一年前のことを思い出す。
 あのときもこうやって責められた。先輩とはなにもないのに。

「つ、つきあってないよ」
「へー、つきあってないのに、上着借りたり、手つないだりするんだ!」

 あかりの声が大きくて、教室中の視線がこちらに集まった。

「羽鳥先輩のときと同じだね? 自分はなんにも悪くないって顔してさ。あんたのやることいちいちぜんぶ、目ざわりなんだよ!」

 わたしはなにも言えなくなった。
 ぜんぶあかりの言うとおりだと思ったから。

 教室のなかにチャイムが響く。
 今日もまた、長い一日がはじまる。