教室に入ると、わたしは幸野の席を真っ先に見た。
 だけどそこには誰も座っていない。
 どうして? まだ来てないの?
 立ちつくしたわたしの耳に、男子の声が聞こえる。

「あれぇ、悟はー?」

 その声に答えたのはあかりだ。

「今日休むってー。風邪ひいて熱でたみたい」

 あかりがスマホのトーク画面を見せながら言う。
 あかりは幸野と連絡をとっているんだ。
 わたしも連絡先を知っていれば、家を聞いて届けられたのに。
 だけどわたしは、幸野の連絡先なんて知らない。

 のろのろと席に向かい、ブレザーを袋ごとぎゅっと抱きしめる。
 それにいま、熱があるって言ってたよね。
 きっとわたしのせいだ。
 わたしを雨のなか追いかけて、上着も着ないで濡れて帰ったから……

 いつもと変わらない、みんなの声を聞きながら、席につく。
 すると目の前にあかりや優奈たちがやってきて言った。

「ねぇ、それなに?」

 ハッと気づいたときは、もう遅かった。
 優奈が袋のなかからブレザーを取り出して、不思議そうにながめている。