明るくて、友だちがたくさんいて、いつも楽しそうなお姉ちゃん。
 ちいさいころからお姉ちゃんは、わたしの憧れのひとだった。
 でもわたしは、お姉ちゃんみたいにはなれない。
 地味で口下手で、とろくて鈍感なわたしは、お母さんからあきれられている。

 並んで歩きだしたお姉ちゃんの真っ白なコートから、ふわりと甘い香りが漂ってきた。
 生クリームみたいな、いい匂い。

 だけどわたしは――
 赤い染みのついた制服のスカートを、きゅっと握りしめる。

「あれ? どうしたの、そのスカート。汚れてるじゃん」
「う、うん。お弁当のケチャップこぼしちゃって……」
「もうー、またこぼしたの? 莉緒は小学生から変わんないねぇ。またお母さんに怒られるよー?」

 お姉ちゃんがけらけら笑う。わたしもそのとなりで笑う。
 汚れたスカート。女の子たちの笑い声。飛び散った真っ赤なケチャップ。

 明日もわたしは、あの教室に行かなきゃいけなくなった。
 明日もわたしは、この世界を生きなきゃいけなくなった。

 それもぜんぶ、さっき会った男のせいだ。