その日は授業が終わると、ダッシュで教室を飛びだした。
 全速力で廊下を走って、昇降口を抜け、駅に向かって駆ける。

 ホームまで来て、息を切らしながら振り返ってみた。
 幸野の姿は見えない。
 わたしはちょうど来た電車に、いそいで飛び乗った。

 最寄りの駅まで来て、わたしは深く息を吐く。
 同時になんだかすごく情けなくなってきた。

 なにをやっているんだろう、わたし。バカみたい。
 こんなことして幸野から逃げたって、なんの解決にもならないのに。

 つめたい風を受けながらのろのろ歩き、歩道橋の階段を上る。
 今日の空はどんより曇っていて、いまにも雨が降ってきそうだ。
 歩道橋の真ん中で立ち止まり、ノートに書かれた黒い文字を思い出す。

【悟に言いつけたら殺すからね】

 殺す――その文字が、わたしの胸を突き刺してくる。

 明日もまた、こんな日が続くのだろうか。
 明日もまた、こんな想いをしなくちゃいけないのだろうか。
 頭が、おかしくなりそうだ。

 歩道橋の手すりに手をかける。
 今日もたくさんの車がこの下を通り過ぎていく。
 だけどわたしが、こんなところで立ちつくしていることなんて、誰も気づかない。