教室に入ると、いつもの席に幸野が座っていた。
 あかりたちと話しながら、笑っている。
 ちらっとこっちを見た気がしたけど、わたしは無視して自分の席に向かう。

「え?」

 机の上に、一冊のノートが置いてあった。
 昨日先生に提出したはずの、英語のノートだ。
 どうしてここに? 嫌な予感しかしない。

 そっと視線を動かすと、こっちを見ているあかりと目が合った。
 意味ありげに笑ったあかりは、ふいっとわたしから顔をそむける。
 わたしは奥歯を噛みしめて、指先で表紙をめくった。

 やっぱり……
 一ページ目。わたしの書いたアルファベットの上に、黒い油性ペンで大きく文字が書かれてある。

【調子に乗るな】

 この筆跡はあかりじゃない。
 あかりがほかの誰かに書かせたんだ。
 どうせ取り巻きの、優奈あたりだろう。
 あかりは指示をするだけで、自分の手は決して汚さない。

 もう一枚ページをめくる。
 悔しいけど、自分の指が震えている。

【幸野悟に気に入られて、調子乗ってんじゃねーよ】
【羽鳥先輩の次は幸野? 手の早い女】
【自分のこと、かわいいとでも思ってんの?】
【学校来るなよ、目ざわりだ】

 ひどい。英語のノートがめちゃくちゃだ。

 ページをめくる。
 あかりの甲高い声が、頭の中で渦巻く。