「どうしたのぉ? 莉緒。その顔……」

 翌朝、起きてきたわたしを見て、お姉ちゃんが顔をしかめる。

 昨日はご飯も食べず、お風呂を入らず布団にもぐった。
 そうしたらなんだか涙がでてきて、泣きながら眠った。
 眠ったらすごく変な夢を見て、起きたらまた泣いていた。

「ひどい顔してるよ? なんかあった?」
「べつになにも」

 それだけ言って、わたしは朝食の用意されている席につく。

 夢のなかでは、小学生の幸野が、校庭ですごく楽しそうにサッカーをしていた。
 でも現れた女のひとが、そのボールを奪ってしまって。
 幸野は必死に返してもらおうとするんだけど、返してもらえなくて。
 わたしはそれを見ているだけで、なんにもしてあげられなかった。

「もしかして、男関係で悩んでる?」

 お姉ちゃんがにやっと笑って、身を乗り出してくる。

「そんなんじゃないよ」

 自分でもまったくわからない。
 怒っているのに、涙が止まらないとか。
 つきあおうなんて言われて冗談じゃないのに、ドキドキが止まらないとか。
 あんな男に振り回されて、夢にまで見ちゃって、ものすごく気分が悪い。

「ほら、莉緒、はやくご飯食べなさい。遅刻するよ」

 お母さんが口を出してくる。

「それから傘持っていきなさいよ、雨降るらしいから」

 その声を聞きながら、カフェオレをひと口飲む。
 甘いカフェオレのはずなのに、なんだかすごく苦い味がした。