「試合中に足を怪我して……」
「え……」
「もうサッカーは……やりたくてもできないんだ」

 幸野の手に力がこもる。
 わたしの胸がぎゅっと痛む。

「あ、あの……」

 するととなりから、噴きだすような笑い声が聞こえてきた。

「なーんてドラマみたいな話が聞きたかった? うそだよ、うそうそ。池澤さんは騙されやすいなぁ。そんなんじゃ悪い男に、すーぐつけこまれるぞ?」

 わたしはまだ状況が呑み込めない。

「う、うそなの?」
「そう。うそです。引っ越しを機にクラブチームをやめて、そのままめんどくさいからサッカーもやめちゃったんだ。中学のころは遊びに忙しかったし、いまはバイトのほうが大事だしね」

 満足そうに笑った幸野の足元に、サッカーボールが転がってきた。

「おにーさーん! ボール蹴ってー!」
「オッケー!」

 幸野の手が、わたしから離れる。
 そして器用に足元のボールを転がし、広い場所まで出ると、「行くぞー」と子どもたちに向かって手を上げた。

 夕陽色に染まる校庭。
 幸野の長い脚がボールを蹴り上げる。

 高く上がったボールは、子どもたちのいる場所から、かなり遠くに落ちて転がった。
 子どもたちが、げらげら笑いながら、ボールを追いかけている。

「やべ。コントロール死んだ」

 苦笑いして振り返った幸野が、ハッと驚いた顔をする。