校舎のわきを通り抜けると、目の前になつかしい小学校の校庭が見えた。

「うわ、なんかちいさくね?」
「うん。すごく狭く見える」

 あのころはとっても広く感じたのに。

 北風の吹く校庭では、三、四年生くらいの男の子たちがサッカーをして遊んでいた。
 幸野は目を細め、その様子をながめている。
 わたしは夕陽を浴びる幸野の横顔を、ちらっと見る。

 あれ? ちがう?
 子どもたちを見ていると思った幸野の目は、もっとずっと先を見ていた。
 校庭の向こう。
 そこには古い団地の建物が何棟か建っている。

 幸野はあの団地を見ている?
 そう思ったわたしの耳に、幸野の声が聞こえてきた。

「ははっ、なにやってんだよ。あいつら」

 子どもたちの蹴ったボールが、校庭の隅に転がっていき、全員でそれを追いかけている。
 それを見て、幸野が笑っているのだ。

 やっぱり気のせいだったのかな?
 幸野は団地のほうを見ている気がしたんだけど。

「ねぇ……」

 わたしは静かに口を開く。
 つながりあった手のひらが熱い。

「どうしてサッカーやめたの? うまかったんでしょ?」

 幸野がふっと笑って、わたしを見る。

「それも聞いてたの? そんなにおれのこと、気になるんだ」

 わたしの顔が、また熱くなる。

「だ、だって聞こえちゃうんだもん。べつに聞いてたわけじゃないよ!」

 幸野があははっと笑って、視線を子どもたちに戻す。
 そして静かに口を開いた。