「莉ー緒!」
もやもやした気持ちのまま、夕暮れの歩道を歩きはじめたところで、ふたたび名前を呼ばれた。
綺麗にネイルした指先を、ひらひらさせながら駆け寄ってくるのは、五歳年上のお姉ちゃん――池澤莉乃。
茶色い巻き髪をふわりと揺らし、つやつや輝くくちびるで話しかけてくる。
硬くて黒い髪のボブヘアで、メイクもしていないわたしとは大違いだ。
「どうしたのー? 莉緒。なんか怖い顔してるー」
となりに並んだお姉ちゃんが、わたしの顔をのぞきこみ、きゃははっと陽気に笑う。
わたしは無理やり口元を引き上げ、ぎこちない笑顔を作った。
「なんでもない。ちょっと変なひとに声かけられて……」
「ええっ、やだそれ、なんでもなくないよ! 気をつけな、あんたあたしに似てかわいいんだから!」
大げさに驚いた顔をするお姉ちゃんに、わたしはもう一度笑いかける。
「お姉ちゃん、もうバイト終わったの? 今日は早いんだね?」
「うん。これからサークルの飲み会あるから。早めに上がらせてもらったんだ」
そう言って、持っていたちいさな箱をわたしに見せる。
お姉ちゃんがバイトをしている、ケーキ屋さんの箱だ。
「また店長から試作品もらってきたよ。一緒に食べよ!」
「わぁ、やったぁ」
「莉緒の好きなイチゴものってるからね」
お姉ちゃんの長いまつげがぱちぱちと瞬く。
わたしはそんなお姉ちゃんの前で「うれしい」と微笑む。
もやもやした気持ちのまま、夕暮れの歩道を歩きはじめたところで、ふたたび名前を呼ばれた。
綺麗にネイルした指先を、ひらひらさせながら駆け寄ってくるのは、五歳年上のお姉ちゃん――池澤莉乃。
茶色い巻き髪をふわりと揺らし、つやつや輝くくちびるで話しかけてくる。
硬くて黒い髪のボブヘアで、メイクもしていないわたしとは大違いだ。
「どうしたのー? 莉緒。なんか怖い顔してるー」
となりに並んだお姉ちゃんが、わたしの顔をのぞきこみ、きゃははっと陽気に笑う。
わたしは無理やり口元を引き上げ、ぎこちない笑顔を作った。
「なんでもない。ちょっと変なひとに声かけられて……」
「ええっ、やだそれ、なんでもなくないよ! 気をつけな、あんたあたしに似てかわいいんだから!」
大げさに驚いた顔をするお姉ちゃんに、わたしはもう一度笑いかける。
「お姉ちゃん、もうバイト終わったの? 今日は早いんだね?」
「うん。これからサークルの飲み会あるから。早めに上がらせてもらったんだ」
そう言って、持っていたちいさな箱をわたしに見せる。
お姉ちゃんがバイトをしている、ケーキ屋さんの箱だ。
「また店長から試作品もらってきたよ。一緒に食べよ!」
「わぁ、やったぁ」
「莉緒の好きなイチゴものってるからね」
お姉ちゃんの長いまつげがぱちぱちと瞬く。
わたしはそんなお姉ちゃんの前で「うれしい」と微笑む。