「醤油、買いに行かなくていいの?」
「あっ、そうだった!」

 お母さんにまた、「遅い」って怒られる。
「あんたはほんとうにグズねぇ」って。

「スーパーまで送ってやるよ」

 幸野がそう言って歩きだす。
 わたしは一瞬戸惑ってから、そのあとについていく。

 階段を下りる、幸野の背中を見つめながら思う。
 そういえば幸野は歩道橋の上で、なにをしていたんだろう。
 あんな寒いところで、たったひとりで。

『死のうとしてただろ? 歩道橋から飛び降りて』

 幸野の声を思い出し、ハッとする。
 まさか……まさかね。
 毎日へらへら笑っていて、クラスの中心にいるようなこいつが、死のうとしていたはずはない。

 街灯の灯りに照らされた歩道を、黙ったまま並んで歩いた。
 スーパーの前で別れるとき、幸野はやっぱりわたしに言った。
「また明日、池澤莉緒さん」って。