その日の放課後、荷物をまとめて教室を出ようとしたら、幸野が駆け寄ってきた。

「ごめん。池澤さん。今日一緒に帰れない」

 わたしは黙って幸野を見上げる。

「今日みんな部活休みだから、カラオケ行くことになってさ。あかりんたちと」

 幸野が親指をくいっと向ける。
 いつもの窓際の席に集まっている男女のグループ。
 そのなかのあかりが、すこし笑ってこっちを見ているのがわかった。
 わたしは息を吐き、つぶやくように言う。

「べつにあんたと帰る約束なんかしてないし」
「じゃあ死ぬなよ?」

 ハッと顔を上げると、じっとわたしを見ている幸野と目が合った。

「おれがいなくても、死ぬなよ?」
「し、死ぬわけないでしょ」

 どうしてわたしのこと、そんなふうに決めつけるのよ。
 なんだかすごく、腹立つ。
 すると幸野がにっと笑って、わたしに言った。

「池澤さんに死なれたら、困るからさ」

 死なれたら……困る?
 べつにあんたが困る理由なんてないじゃない。

「悟ー、なにやってんのー?」
「行くぞー」
「おー」

 あかりたちに手を上げてから、幸野はもう一度わたしを見て言う。

「じゃあ、また明日。池澤莉緒さん」

 なぜだか背中がひやりと冷える。
 幸野が通学バッグを肩に引っかけ、あかりたちに駆け寄っていく。

 やっぱりわからない。
 幸野悟の考えていること。
 わたしには、まったくわからない。