「まぁ、飲んでいろんなこと忘れちゃいたいのかなぁ……」
「なにそれ。疲れたOLみたい。お酒に頼るのはよくないよ」
「だよねー。二十二でアル中とか笑える」

 お姉ちゃんはふっと微笑んで、またお酒をひと口飲んだ。
 わたしはパリッとポテチを噛みしめながら、お姉ちゃんの横顔を見る。

 いつも明るいお姉ちゃんだけど、ときどきこんなふうに、どこか寂しそうな表情をする。
 笑っているのに、泣いているような……どうしてだろう。
 お姉ちゃんにも、誰にも言えない悩みとか、あるのかな?

「ねぇ、お姉ちゃん」

 わたしはもう一枚、ポテチをつまみながらつぶやく。

「わたしと同級生の、幸野悟っていう子、知って……」

 わたしの膝に、こてんっとお姉ちゃんの頭がのった。

「お姉ちゃん?」

 見下ろすと、すうすうとちいさな寝息が聞こえてくる。

「え、寝ちゃったの?」

 なんで寝るかなぁ……幸野のこと、聞こうと思ったのに。
 でもいまはそれより……
 わたしはお姉ちゃんのやわらかい体を揺さぶる。

「お姉ちゃん、起きて。ベッド行こう。こんなところで寝たら、風邪ひいちゃうよ」
「んー……莉緒はやさしいなぁ……」

 寝ぼけたような顔を向け、お姉ちゃんがにかっと笑う。

「もうー、酔っぱらってるんでしょ?」
「酔ってないよー、莉緒はかわいい! あたしの大事な妹!」

 ふざけた調子で抱きついてくるお姉ちゃんを、引っ張り上げて立たせる。

「ほら、部屋に戻るよ」
「莉緒ちゃーん、おんぶー」
「無理」

 酔っぱらったお姉ちゃんを部屋まで連れて行くのは、いつもわたしの仕事。
 だけどそれはそんなに嫌じゃない。
 お姉ちゃんは酔っぱらうといつも、わたしのことを「大事な妹」と言ってくれるから。