その日の夜、ベッドに入ったけどなかなか寝つけなくて、わたしは部屋を出て、キッチンの冷蔵庫へ向かった。
 たしかお姉ちゃんがバイト先でもらってきたケーキがあったはず。
 こんな夜中だけど、お腹がすいたから食べちゃおうかなって、思ったんだ。

 するとリビングの灯りが、ぼんやりと灯っていることに気がついた。
 きっとお姉ちゃんだ。わたしはそっとドアを開き、声をかける。

「お姉ちゃん」

 ソファーに座っていたお姉ちゃんが振り返り、「よっ、莉緒!」とご機嫌な口調で言う。
 わたしはちいさくため息をつき、お姉ちゃんのそばにいく。
 テーブルの上には空になったお酒の缶が、いくつも置いてあった。

「また飲んでるの?」

 お姉ちゃんはよくお酒を飲む。
 友だちと外で飲んで、酔っぱらって帰ってくることもあるし、こうやって夜中にひとりで飲んでいるときもある。

「うん! 莉緒も飲めば? って、あんたまだ未成年かぁ……残念!」

 お姉ちゃんが声を上げて笑う。楽しそうに。
 わたしは黙ってお姉ちゃんのとなりに腰掛けた。
 お姉ちゃんはおつまみにしていたポテトチップスの袋を、わたしに差しだす。

「お酒って、そんなにおいしいの?」

 わたしはポテトチップスをつまみながら聞く。

「ん? いや、ぜんぜん! ケーキのほうが断然おいしい!」
「だったらなんで飲むのよ、そんなに」

 お姉ちゃんがまた笑う。
 それからどこか遠くを見るような目をしてつぶやいた。