幸野悟が転校してきて一週間。
 毎朝登校すると、幸野はもう教室に来ている。
 そのまわりには男子も女子も集まっていて、いつもとてもにぎやかだ。

「え、悟、バイト決まったって、どこ?」

 あかりの声が聞こえてくる。

 最近、あかりは朝も休み時間も、幸野の席に行く。
 それに合わせるように、あかりの仲間もそこに集まる。
 前はあかりの席に集まっていたのに。
 いまは幸野がクラスの中心みたいになっている。

「ああ、葬儀屋にした」
「は? 葬儀屋?」

 あかりの声と同時に、わたしもちらっとその方向を見た。
 だけど彼女たちの背中に隠され、幸野がどんな表情をしているのかは見えない。

「うん。おれ、死に関わる仕事に興味あってさ。時給もなかなかだし」
「なにそれ。こわっ」
「オバケでそう」

 女の子たちが騒ぎだす。

「葬儀屋って、亡くなったひとの身支度したり、棺に入れたりもするんじゃねーの? うちのばあちゃんが死んだとき、やってもらった」

 木村くんがそう言った。

「ああ、でも、おれはまだ高校生だから、雑用しかやらせてもらえないよ。本当はそういうのもやってみたいけど」
「うわ、あたしだったら絶対やだ」
「ていうか、あんたみたいなチャラいやつが、よくそんなとこで雇ってもらえたね」

 あかりが幸野の、茶色い髪を指さして言う。

「なんか人手不足らしくてさ。髪黒くして来いとは言われたけど。あかりんたちもやりたいなら、紹介するよ?」
「いや、遠慮しとく」
「あたしも」
「変わってるね、やっぱ、悟って」

 あははっと幸野の明るい笑い声が響く。
 わたしは机の上に広げてある、読む気もない文庫本に視線を落とした。

 この一週間、あかりたちからの嫌がらせがなくなっている。
 転校してきた日、幸野があかりにあんなことを、言ったからだろうか。
 いや、その程度で、あのあかりが引き下がるとは思えないけど……でもとりあえず、わたしは毎日おだやかに過ごせている。

 校舎にチャイムの音が響く。わたしはホッと息を吐く。
 今日もこの席に座って、黙って六時間授業を受けるだけだ。