のろのろと歩いて、家に着いた。
 考えれば考えるほど、意味がわからない。
 あの男……ぜったいなにか企んでる。

「ただいまぁ……」

 玄関で靴を脱ぎ、リビングに入ると、お母さんが退屈そうにテレビを見ていた。
 今日はパートが休みみたいだ。

「おかえり。莉緒」

 わたしはテレビを見たままのお母さんの背中を見つめる。

『つらいこととか、家族に話してる?』

 学校でされたことを、わたしは一度も家族に話していない。
 お母さんはわたしがあかりに、ひどいことをされているなんて知らない。
 まだ小学生のころのように、仲がいいと思っている。

 それにお母さんは、あかりのお母さんと仲がよくて、ときどきランチをしたりする。
 もしわたしが、あかりからされていることをお母さんに話せば、きっとあかりのお母さんやあかりにまで伝わってしまうだろう。

 そんなことになったら……「親にチクった」と言われ、もっとひどいことをされるに決まっている。
 だからわたしは話せない。
 あかりのことは、お母さんに話せない。

「お姉ちゃんは?」

 お母さんの背中に向かってつぶやいた。
 もしかしてお姉ちゃんは、幸野のことをなにか知っているかも、なんて思ったから。

「今日は学校。そのあとバイトだから遅くなるって」

 お姉ちゃんは大学とサークルとバイトに忙しくて、家にいないことが多い。

「莉緒、あんたもバイトでもすれば?」

 お母さんがこっちに顔を向けて言う。

「部活もやめちゃって、帰ってくれば部屋にこもりっぱなし。土日だって遊びにいくわけでもないし」

 わたしはなにも言わずにリビングを出る。
 そんなわたしの背中に、お母さんが言う。

「まったく。莉乃は莉乃で遊びまわって、家に寄りつかないし。あんたたちふたり足して半分に割れば、ちょうどいいのにね」

 お母さんはお決まりの文句を吐いて、大きなため息をついた。