「もしかしてわたし……あんたを保健室に連れていったことある?」

 幸野が静かにうなずいた。

「小二のころな。おれが放課後、サッカーやってて怪我したとき、ひとりだけ駆け寄ってきてくれた。ほんとはみんなで、あかりの家に遊びにいこうとしてたのに、そのせいで置いて行かれて……でもあとから行けば大丈夫だからって。あかりちゃんはちゃんと待っててくれるからって。おれの前で笑ったんだ」

 わたしの顔が、なんだか急に熱くなる。

「それからずっと見てたよ。クラス違ったし、池澤さんは覚えてないだろうけど」

 幸野はそこで一回息を吐いたあと、まっすぐわたしを見つめて言った。

「好きだったんだ。ずっと」

 その言葉が胸に染みこみ、心臓がドキドキと音を立てる。

「でも四年生のとき、あんなことがあって……池澤さんが、おれの恨んでるやつの妹だって知って、もうどうしたらいいのかわからなくなって……結局おれは、好きな子を傷つけた」

 幸野がわたしの前で笑う。すごく寂しそうに。

「ごめんな……ほんとに……」

 わたしは首を横に振った。じわじわと胸の奥が熱くなってくる。

 こんなことになったのは、ぜんぶ中学生だったお姉ちゃんのせいだ。
 だから謝らなきゃいけないのは、お姉ちゃんやわたしのほうで……
 でもいま伝えなきゃいけないのは、「ごめんね」じゃない。