「だったら……」

 幸野の手が、わたしの背中に触れる。
 そしてそのままぐっと、自分の胸に抱き寄せた。

「だったらあんたも、いなくなるなよ」

 わたしの涙で濡れた顔が、幸野の制服に押しつけられる。

「おれもあんたに……そばにいてほしいから」

 幸野の手に、力がこもった。
 苦しくて、でも離れたくなくて、わたしはその体にすがりつく。

「うん……わたしはいるよ」

 くぐもったわたしの声は、幸野の耳に届くだろうか。

「ずっと、幸野のそばにいるよ」

 だから帰ろう。遠足から帰ろう。
 もう怖くないから。大丈夫だから。
 つらかったら、わたしが支えるから。

「このどうしようもない世界のなかで、一緒に生きよう」

 生きていればきっと、こんなわたしたちにも幸せが来る。
 わたしたちはまた明日、一緒に笑いあえる。

 手を伸ばし、幸野の体を抱きしめた。
 ぎゅっと強く、抱きしめた。

 幸野はわたしの胸のなかで、声を立てずに泣いていた。