電車に乗って、海のある駅を目指した。
 車内は今日もすいていて、わたしたちは並んで席に座る。
 まだ寒かった日、幸野に連れられて、こうやって電車に乗ったのを思い出す。

 あの日、眠ってしまった幸野がわたしにもたれかかってきて……わたしと触れ合った体が、すごくあたたかかったっけ。
 わたしはちらりと、となりに座る幸野を見る。
 幸野はわたしと目を合わせないように、黙って窓の外を見つめていた。

 終点で電車を降りると、ひとの流れに沿って、改札を抜けた。
 空はよく晴れていて、春のやわらかい風が、制服のスカートの裾を揺らす。

 すこし歩くと、目の前に海が見えてくる。
 同時に、あの日ふたりで入ったレストランも見えて、胸がちくんっと痛む。
 わたしは黙ったままの幸野の腕をつかむと、国道のわきの階段を降り、砂浜に向かった。