お姉ちゃんがお母さんと一緒に、家を出ていく。
 わたしはその場に立ちつくし、考える。

 もしかしてお姉ちゃんは、わたしから逃げたかったのかもしれない。
 いや、わたしというか、幸野から逃げたかったんだ。
 でもわたしがいまも、幸野のことを気にしてるって知っているから……だからお姉ちゃんはこの家を出ていったんじゃないかって、わたしは思っている。

 ちいさく息を吐き、誰もいないキッチンに入る。
 するとテーブルの上に、お姉ちゃんがバイトしていたケーキ屋さんの箱が置いてあった。
 箱にはお姉ちゃんの字で書かれた、メモが貼られてある。

『大好きな莉緒と、お父さんへ』

 箱のなかをのぞいてみたら、いつか店長が試作したイチゴののったケーキが商品となって、箱の中にふたつ並んでいた。
 わたしの目から、また涙があふれる。

 わたしは床に膝をつくと、子どもみたいに声を上げて、わんわん泣いてしまった。
 そして泣きながら思った。
 もうこんなふうに、誰にも泣いてほしくないって。