「莉緒。ごめんね」

 お姉ちゃんがかすれた声でつぶやいて、どこか寂しそうに微笑む。
 ああ、この顔……幸野と同じだ。
 幸野もわたしに「ごめんな」って言って、こんな表情をした。
 ぼんやりするわたしの前で、お姉ちゃんは続けて言う。

「いろいろ迷惑かけてごめん。あたしがいなくなったら、莉緒は莉緒の好きなように生きてね」

 わたしはお姉ちゃんの前でなにも言えない。
 迷惑ってなに?
 わたしはお姉ちゃんのこと、迷惑だなんて思ってない。

 たしかにお姉ちゃんがしたことは、許されないことだと思っている。
 でもわたしにとってのお姉ちゃんは、たったひとりのやさしいお姉ちゃんで……
 そんなふうに考えるのも、許されないことなの?

 ぎゅっとくちびるを噛みしめる。
 だけど涙があふれて止まらない。

「莉緒。あんたはあたしの大事な妹」

 お姉ちゃんのやわらかい腕が、ふわっとわたしの体を抱きしめる。
 わたしはそんなお姉ちゃんのやせ細った体にしがみつく。

「お姉ちゃん! 学校がお休みの日は、おばあちゃんちに遊びに行くからね! だからわたしのこと待っててね。勝手にいなくなったりしたら、わたしが許さないからね!」

 お姉ちゃんはわたしを抱きしめたまま、くすっと笑った。

「莉緒。ありがとう。またね」

 お姉ちゃんの体がわたしから離れる。
 そして昔から変わらない、いたずらっぽい笑みを見せて、わたしに手を振る。

「またね! お姉ちゃん!」