「ただいま……」
「おかえり、莉緒」

 玄関に入ると、お母さんが出かけようとしているところだった。

「ちょうどよかった。これから莉乃と、おばあちゃんち行ってくるから」

 わたしはハッと顔を上げる。
 そうだった。今日はお姉ちゃんがおばあちゃんの家に行く日。

「今夜はお母さんも泊ってくるからね。あ、夕飯支度してあるから、お父さんと食べて」
「うん……」

 目の前で話すお母さんの向こうに、お姉ちゃんがキャリーバッグを持って立っている。

 家族にぜんぶ告白したあとも、お酒がやめられず、「死にたい」と口走っていたお姉ちゃん。
 病院でカウンセリングを受けたりしていたけれど、気分の浮き沈みが激しくて、バイトも内定をもらっていた会社もやめてしまった。

 それで家にずっとこもっていたのが、今度は「家にいたくない」って言いだして。
 お母さんの勧めで、海のそばのおばあちゃんちで、今日からしばらく暮らすことになった。

「莉緒」

 お姉ちゃんがわたしに声をかけてくれた。
 わたしは部屋に上がって、お姉ちゃんの前に行く。

 お姉ちゃんはずっと、わたしに話しかけてくれなかった。
 どうしてなのか、わかるようでわからない。
 でもなんとなくは、わかる。