放課後、校舎から一歩外に出ると、春風がやさしく頬をなでた。
 校門のわきに立つ大きな桜の木から、花びらが一枚落ちてきて、制服を着たわたしの肩にふわりとのる。

 駅まで続く道をひとりで歩き、電車に乗って三駅目で降りた。
 そしてまた、あたたかい風に吹かれながらひとりで歩く。

 いつものように歩道橋の階段を上ったところで、わたしはときどき足を止める。
 ここで最後に、幸野の服をつかんだことを思い出す。

『ごめんな。おれのせいで、あんたの家族まで壊れちゃって……』

 歩道橋の手すりに手をかける。
 ゆっくりと暮れていく空をながめる。

 幸野はいま、なにを考えているんだろう。
 わたしのこと、どう思っているんだろう。
 もう忘れてしまいたいのかな。
 だってわたしはお姉ちゃんの妹だから。
 きっともう、わたしは幸野に関わらないほうがいいんだろう。

 きゅっとくちびるを噛みしめ、鼻をこする。
 だけどそう考えるたび、胸がすごく痛くなって、涙が出そうになるんだ。

 会いたいな。またここで。
 一緒に話して、一緒に笑いたい。
 一緒に手をつないで、一緒に出かけたい。

『この先、楽しいことがたくさん起きるよ』

 起きないよ。そんなの。
 あんたがここにいてくれないと。
 あんたと一緒じゃなかったら、楽しいことなんて、なんにも起きない。

 やわらかな風が、少し伸びたわたしの髪を揺らす。
 わたしは目元をごしごしとこすると、手すりから手を離し、家に向かって歩きはじめた。