あの日、歩道橋まで追いかけた日、「じゃあ」と言って別れた幸野は、もうわたしに駆け寄ってこない。

『こんなどうしようもないやつ、ほっとけばいいだろ?』

 そうだ、もうあんなやつ、ほっとけばいい。
 わたしはそれを望んでいたはず。
 なのにわたしは幸野の姿を見かけるたび、体中が熱くなって、心臓がざわざわ騒いで、すごく苦しい気持ちになってしまう。

 だって幸野の顔は、いつだってどこか寂しそうで、泣いているみたいに見えたから。
 ぜんぜん楽しそうでも、幸せそうでもなかったから。

 廊下にチャイムが響いた。

「やばっ、早く行かなきゃ!」

 みんなでバタバタと走りだす。
 わたしはスケッチブックを胸に抱えて、ちらっと後ろを振り返る。
 幸野はこちらを振り向くこともなく、廊下の角を曲がって消えてしまった。