「消えないよ、おれは」

 その声に、わたしは顔を上げる。

「てか、できないんだ。この前まで、死ぬのなんて、なんにも怖くないって思ってたのに……いまは、すごく……怖い」

 わたしは静かに息をのむ。

「きっとぜんぶ……あんたのせいだ」

 歩道橋の真ん中に座りこみ、幸野がわたしの顔を見つめた。
 わたしもまっすぐ、幸野の顔を見つめる。
 橋の下を行き交う車の音も、街のざわめきも、いまはなにも聞こえない。
 いまわたしたちは、この世界にふたりぼっち――そんな気がした。

「……だから大丈夫」

 やがて幸野がそう言って、わたしの体を引き離す。

「そんなに心配しなくても大丈夫。ほんとうに死んだりしないから」

 わたしは黙ったまま、幸野を見つめる。
 幸野はそんなわたしを残し、ゆっくりと立ち上がった。

「それより姉ちゃんのこと、心配したほうがいいんじゃないか?」

 わたしを見下ろす幸野の顔が、ぼやけてよく見えない。

「ごめんな。おれのせいで、あんたの家族まで壊れちゃって……」

 幸野がそうつぶやいて、いつもみたいにほんのすこし笑う。

 なんで? なんでそんなふうに笑うの?
 先にあんたの家族を壊したのは、わたしのお姉ちゃんなのに……

 そして幸野は、涙をこぼすわたしに向かってこう言った。

「じゃあ……」

 幸野はもう言わない。
「また明日」って、わたしに言わない。

 そしてその次の日から、幸野は学校に来なくなった。