「離せよ」
「い、いやだ」

 幸野がわたしをにらみつけた。
 だけどわたしは首を横に振る。

「ぜったい離さない! 勝手なことして、勝手にすべて終わらせたつもりになって、勝手にわたしの前から消えようなんて……そんなこと、わたしがさせない! 許さない!」

 歩道橋の上に、つめたい風が吹く。
 サイレンを鳴らした救急車が、歩道橋の下を通り過ぎていく。
 やがて幸野が、かすれた声でつぶやいた。

「おまえ……ほんとわかんねぇ……」

 幸野は力が抜けたように、その場に座りこむ。
 わたしも服をつかんだまま、同じように腰を落とす。

「なんでだよ……わかんねぇ……おれ、あんたにひどいことたくさんしたのに……なのにさっきも、団地の話を止めようとしたよな? おれに聞かせないように……」

 幸野が自分の髪を、くしゃくしゃと掻きまわす。

「なんでそんなことするんだよ! こんなどうしようもないやつ、ほっとけばいいだろ?」
「わ、わたしだってわかんないよ!」

 幸野の前で、わたしは言った。

「あんたのことは嫌いだし、許せない。でもあんたが勝手に消えるのは、もっと許せないの!」

 幸野がじっとわたしの顔を見た。
 わたしは涙が出そうになるのをぐっとこらえる。
 すると幸野がぽつりとつぶやいた。