「あの、先生……幸野くんはいまどこにいるんですか?」
「ん? 幸野か? あいつは家に帰らせた。とりあえず自宅謹慎ってことで……」
「わ、わたしも帰ります!」

 突然立ち上がったわたしを、先生が不思議そうに見上げる。

「池澤?」
「い、いじめのことは……もう大丈夫です。わたし、嫌なことは嫌って言えたから……それにもう、ひとりじゃないってわかったので」

 このクラスのなかにも、わたしのことをわかってくれる子たちがいる。
 だからわたしはもう、大丈夫だ。

「わたしが大丈夫なら、剣持さんや幸野くんが、なにか処分を受けることもないですよね?」
「あ、ああ……でも池澤、どんな理由があっても、やったほうが悪いわけで……」
「わかってます。剣持さんたちにされたことを、許したわけじゃないです。だけどわたしはここでもう、ぜんぶ終わりにしたいんです」

 ぺこっと頭を下げて部屋から出ようとするわたしに、先生があわてて声をかける。

「ちょっと待て、池澤……」
「失礼します!」

 わたしは振り向かずに、廊下へ飛び出した。