「ぜんぶ、話せるか? いままであったこと」

 その日、わたしたちの教室は、他のクラスの先生たちまで駆けつけてきて、大騒ぎになってしまった。
 あかりは幸野に暴力を振るわれたと泣きじゃくり保健室へ、幸野は職員室へ連れていかれた。
 幸野に突き飛ばされたわたしも被害者とされて、いま相談室で、担任の先生に事情を聞かれている。

「実は昨日、クラスの女子たちから、相談を受けていたんだ。クラス内で目に余るいじめが起きているってな。それで今日、池澤とも話をしようと思っていたところだったんだ」

 そうか。誰かが先生に話したのか。
 わたしはうつむいて、握りしめた自分の手を見下ろす。
 ジャージの袖には、まだケチャップがついている。

「物を隠されたり汚されたり、そういう嫌がらせがあったのはほんとうか? 最近は個人的な写真をSNSで流されていたらしいじゃないか」

 わたしはずっと黙っていた。
 先生はそんなわたしを見て、ちいさくため息をつく。

「話して仕返しされるのが怖いか? でも幸野は、さっき職員室で認めたそうだぞ? 剣持あかりと一緒に、池澤にひどいことをしたって」

 ハッと顔を上げる。
 先生はじっとわたしを見ている。

「落ち着いたら剣持にも事情を聞くつもりだ。悪かったな、いままで気づいてやれなくて」

 先生がわたしの前で頭を下げる。
 だけどわたしはちいさく首を横に振る。

 ちがう。わたしは先生に謝ってほしいわけじゃない。
 あかりとも、もう元には戻れないってわかっている。
 でも幸野は……幸野のことは……