「だめっ!」

 わたしはふたりの間に入りこみ、幸野の体にしがみついた。

「ちがう! ちがうよ、幸野! そうじゃない! あんたの行く方向はそっちじゃない!」

 幸野がぼんやりとわたしを見下ろす。

「そっちに行ったらだめ! 戻ってきて! お願いだから……こっちに……」

 幸野はわからないと言っていた。
 自分の生きている意味が。
 きっとわからないまま、ふらふらと彷徨っているんだ。

 幸野の体に、顔を押しつけた。
 すぐ近くで、心臓の音が聞こえる。
 生きてる。幸野は生きてる。
 この命を自分で消させたりしない。
 わたしがぜったい、そんなことさせない。

 やがて幸野がゆっくりと、あかりから離れた。
 わたしの後ろで、あかりがへなへなと座り込む。

「あかり!」

 悲鳴のような声を上げ、バタバタと駆け寄ってくる優奈たち。
 わたしは幸野の制服をつかんだまま、その顔を見上げる。
 幸野はじっとわたしを見ている。
 悔しそうな、悲しそうな、寂しそうな表情で、ただ黙って……

「なにやってるんだ!」

 数人の生徒と一緒に、担任の先生が教室へ飛び込んできた。
 ただ事ではない騒ぎに、誰かが先生を呼びにいったのだろう。

 突然「わあっ」と、あかりが大声で泣きだした。
 教室のなかがざわめきだす。
 先生はまっすぐ、こっちに駆け寄ってくる。
 それを見た幸野は、わたしの体を乱暴に引き離すと、その手で思い切り突き飛ばした。

「幸野っ!」
「池澤さん!」

 大きな音を立て、わたしは派手に床の上に転がった。
 そばにいた女の子たちが駆け寄ってくる。
 抱き起こされたわたしの目に、先生に腕をつかまれている幸野の姿が映った。