「やめろよ。もう」

 ゆっくりと目を開くと、あかりの手をつかんでいる幸野の姿が見えた。

「もうやめろ……こういうの……」

 幸野が疲れたような声でそう言った。

「は? なんなの?」

 あかりはそんな幸野の手を振り払ってから、ふっと口元をゆるめる。

「え、もしかして、いつものあれ? やめなよ、悟ー。また莉緒が信じちゃうから。幸野くんがわたしを守ってくれた、なんてさー」

 あかりがおかしそうに笑いだす。
 まわりの女の子たちもぎこちなく笑う。
 だけど幸野は笑わなかった。

「もう……めんどくさい」
「は?」
「もうなにもかも、消えちまえばいい」

 幸野があかりの肩をつかんで、ガラス窓に押しつけた。

「きゃっ……」

 ちいさな悲鳴をあげたあかりの、すぐ横の窓が開いていて、外から風が吹き込んでくる。
 あかりの長い髪が、風にふわっとなびいた。

「言ったよな、おれ。今度池澤さんを傷つけたら、おれがあんたを殺すって」
「は? あんただってやってたじゃん。莉緒のこと騙して傷つけて、笑ってたじゃん」
「ああ、そうだよ。だからおれはおれを殺す。だけどその前に、おまえを先に殺すよ?」

 笑っているあかりの顔が青ざめる。

「な、なに言ってんの? うそでしょ?」
「うそじゃないよ。おれ、頭おかしいって言っただろ?」

 幸野の手が、あかりを窓に押しつける。
 あかりは首を動かし、窓の外を見て、体を震わせる。

「あ、あたしを落とすつもり?」
「そのつもり」
「で、できるわけない!」

 あかりの叫び声と同時に、幸野の手があかりの肩をつかんだ。
 そしてあいている窓へ、体を押しこむ。
 誰のだかわからない悲鳴が、教室に響く。