「うるさい! あたしはあんたが嫌いなんだよ! グズでバカで、ひとのあとちょろちょろくっついてくるだけでなんにもできないくせに、男からかわいがられて……なんなの? あんたなんかのどこがいいの? マジでムカつく!」

 あかりはケチャップのキャップをあけると、わたしに向けて力任せに押した。

「きゃっ……」

 手でよけたけど、わたしの顔も髪もジャージも、真っ赤に染まる。

「な、なにすんのよ!」

 わたしはあかりの手からケチャップを奪い、それをあかりに向ける。

「ひっ」

 今度はあかりの制服が赤く染まった。

「あんたねー!」

 あかりがわたしにつかみかかった。
 わたしもその腕をつかんで、窓に体を押しつける。
 ガシャンっと大きな音が響いて、そばにいた女の子たちが驚いて離れた。

「わ、わたしだってあんたが嫌い! あかりなんか大っ嫌い!」
「ふざけんな! 離せ! 生意気なんだよ! 莉緒のくせに!」

 わたしはあかりの髪を引っ張り、あかりはわたしの胸元をつかんだ。
 取っ組み合いになったわたしたちのことを、みんなが呆然と見ている。
 誰もなにも口にしない。
 ただ遠巻きにわたしたちを見ている。

 だけどわたしはもう、あかりの言いなりにはならない。
 わたしは自分で自分を守る。
 そして大事なひとも、守ってあげたい。

 あかりが大きく手を振り上げた。
 その手が勢いよくわたしの顔面に向かってくる。
 とっさに目を閉じたわたしの耳に、その声が聞こえた。