「あかり」

 強く、心を込めて、その名前を呼ぶ。
 あかりがわたしのほうを見た。不満そうな顔つきで。

「これ」

 わたしはあかりの机の上に、赤い染みのついたシャツを置いた。
 まわりが急に静まり返り、みんながわたしに注目している。

「もうこういうのやめて」
「は?」

 あかりが顔をしかめる。
 だけどわたしは思ったことをそのまま吐きだす。

「嫌なの。こういうことされるの。だからもうやめて」

 幸野がゆっくりとこっちを見た。
 あかりがわたしをにらみつけて言う。

「なに言ってんの? あたしがやったって証拠あるの? いい加減なこと言わないでよ!」

 あかりが手を広げ、シャツを叩きつけた。
 だけどわたしは顔をそむけない。

 今日はちゃんと言うんだ。
 嫌なことは嫌だって、ちゃんと伝えるんだ。

「証拠は、あるよ」

 わたしは机の横にかけてある、あかりのバッグをつかんだ。
 そしてファスナーを開き、なかに手をつっこむ。

「ちょっ、なにしてんのよ!」
「ほらっ、これ!」

 手にケチャップをつかんで、あかりの前に突きつけた。

「あかりがやったんじゃなくても、やらせたのはあかりでしょ! もうこういうことしないで!」

 あかりがくちびるを噛みしめ、顔を真っ赤にする。
 そして立ち上がると、わたしの手からケチャップを奪った。