「そこって男の子が飛び降り自殺した団地でさぁ。その子の幽霊が出るらしいんだよねぇ……地縛霊になって」
「やめてよ、そんな話! こわっ」
「あ、でもあたしも聞いたことある。成仏できずに、夜の団地をさまよっているって」

 女の子たちがキャーキャー騒ぎだす。

「マジ? じゃあ行ってみるか?」
「いいね。肝試し大会しようぜ」

 近くにいた男の子たちも話に加わる。

「えー、こわすぎ」
「おもしろそうじゃん」
「男子ってこういうの好きだよねー」
「行こうぜ、みんなで。なぁ、悟?」

 サッカー部の木村くんが、幸野の背中に声をかける。
 幸野は振り向かないで答える。

「おれは……いいや」
「え、なんでだよー。あ、もしかしておまえ、ビビってんのか?」
「まさかぁ、悟は葬儀屋さんでバイトしてるんだよ? オバケにビビるわけないじゃん」

 みんなの笑い声が教室内に響く。
 わたしはじっと幸野の横顔を見つめる。

 誰も住んでいない古い団地。
 毎朝そこに通っていた幸野。

 だけど会えないって言っていた。
 お兄さんにはもう会えないって。
 でも幸野は会いたかったんだ。
 いまでもお兄さんに、会いたいと思っているんだ。

 わたしは汚れたワイシャツをつかんで、席を立った。
 そしてまっすぐあかりたちのもとへ行く。