教室に戻ると、あかりたちが窓際の席に集まってお弁当を食べていた。
 いつものように騒がしく。
 そのそばで幸野は、ぼんやり窓の外をながめている。

『おれにつきまとうな』

 さっきの言葉を思い出し、視線をそらす。

 女の子たちと別れ、わたしはひとり、バッグのなかから弁当箱を取り出した。
 だけどわたしの耳には、どうしてもあかりの声が聞こえてしまう。

「えー、優奈、駅前のドーナツ屋でバイトはじめたんだ」
「うん、今度あかりたちもおいでよ」
「行く行くー! 今日は? バイトあるの?」
「え、あるけどー」
「じゃあ、今日行く! ね、悟ー、一緒に行こうよ」

 あかりの声が一段と高くなり、幸野がそれに返事する。

「ごめん。今日おれもバイト」
「えー、バイトって、葬儀屋さんの?」
「うん」
「マジで? まだやってんの? オバケ出ない?」

 幸野のすこし笑った声が聞こえる。

「出ないよ。そんなの」
「オバケっていえばさぁ」

 あかりが張りきった口調で言う。

「あたしが通ってた小学校の近くの、ボロい団地。もう誰も住んでないんだけど……そこに出るらしいんだよね」

 わたしはハッと顔を上げ、あかりたちのほうを見た。
 あかりは机に身を乗りだして、みんなの顔をみまわし、大げさに口を開く。

「中学生の、幽霊が」

 胸の奥に痛みが走った。
 とっさに幸野に目を向ける。
 だけど幸野はなにも聞こえないかのように、窓の外を見ている。