「それに……また死のうとしたら困るからさ。池澤さんが」
「え……」

 呆然とするわたしの前で、幸野が振り返る。

「死のうとしてただろ? 昨日。歩道橋から飛び降りて」

 思わず首を横に振る。
 すると幸野がもう一度笑って、わたしに言った。

「帰ろうよ。一緒に」

 わたしはぎゅっと両手を握りしめる。
 なんなの? なんなの、こいつ。

「か、からかってるの?」
「え?」
「からかってるんでしょ? わたしのこと!」

 幸野がじっとわたしを見ている。
 わたしの言葉は止まらない。

「わ、わたしのこと知ってたって、ほんとうなの? だってサッカークラブ入ってたようなひとが、わたしみたいな地味な人間に気づくはずないもの」

 そう、わたしは小学生のころから、変わっていない。
 友だちが少なくて、男子なんかとしゃべったこともなくて……唯一わたしと仲良くしてくれたのは、あかりくらいで……

「え、そんなに信用ないかな、おれ」

 幸野が困ったように、明るい色の髪を掻く。

「ほんとうに知ってたよ、池澤さんのことは。クラス違ったから、そっちは知らないかもしれないけど」

 そして一歩近づいて、わたしの顔をのぞきこむ。
 シルバーのピアスが目の前でひかって、わたしはそっと目をそらす。