翌朝、キッチンに行くと、お母さんがぼうっと座っていた。

「お母さん……おはよう」

 わたしの声に、お母さんはハッと顔を上げる。

「ああ、おはよう。ごめんね、まだご飯作ってないんだ」
「いいよ、いらない。もう出るから」

 わたしは通学バッグを肩にかけて聞く。

「……お姉ちゃんは?」

 お母さんの大きなため息が聞こえる。

「ずっと部屋に閉じこもってる。ご飯も食べないで……今日、病院に連れていこうと思って」
「そう」

 わたしはそれだけつぶやくと、お母さんに言った。

「いってきます」

 お母さんは疲れ切ったような声で「いってらっしゃい」とつぶやく。
 わたしの家族はきっともう、なにも知らなかったあのころには戻れない。