「うん。そうだよ」

 わたしはつぶやく。

「わたしはバカだよ」

 ほんとうに、バカだった。

「いままでなにも知らないで。知らないまま生きてきて。ほんとうにわたしは……」

 うつむいて、膝の上のスカートを強く握りしめる。
 そんなわたしのとなりで、幸野が声を出す。

「言っとくけどおれ、あんたに謝ってほしいわけじゃねぇからな。あんたの姉ちゃんにも、いまさら謝られたくない。そんなことされても、ムカつくだけだから」

 わたしは静かに顔を上げると、となりを向いて言った。

「じゃああんたは、なんでこんなことしたの?」

 幸野は強く目を閉じ、自分の髪をぐしゃぐしゃとかき回しながらつぶやいた。

「わかんねぇ……」

 また風が吹き、幸野の声が流される。

「毎朝ここにきても兄ちゃんに会えないし、母さんが『するな』って言ったことしてるし……あんたが言ったとおり、ふたりはこんなこと望んでないってわかってる。それなのに……」

 握った手を、幸野は自分の膝に叩きつける。

「復讐するくらいしか、自分の生きてる意味がわからなかった」

 わたしは黙って幸野の横顔を見る。
 幸野はもう一度、自分の膝を叩きつけると、ひとりごとのようにつぶやいた。