「そうだよ。なにも知らずに、のんきに生きてる妹にも、お姉ちゃんのしたことを教えてあげたくて。それにお姉ちゃんの一番大事にしてるものを、精神的に傷つけてやりたかったしね」
お姉ちゃんが幸野の顔に、バッグを投げつけた。
一瞬顔をそむけたあと、幸野はすぐにまた、お姉ちゃんを見つめて笑う。
「でもさ、こんなの仕返しっていうほどのもんじゃないでしょ? あまいよ。ぜんぜんあまい。あんたらの受けた傷なんて、蚊に刺された程度のもんじゃん」
そして幸野は一歩お姉ちゃんに近づいて、その顔をのぞきこむ。
「だけど匠はな、自分の命を投げ捨てたくなるくらいの傷を、あんたに負わされたんだよ。たったひとりで苦しんで苦しんで……あんたのせいで死んだ」
お姉ちゃんが口元をおさえる。
「幸野匠は、池澤莉乃に殺されたんだよ」
お姉ちゃんの体がその場に崩れ落ちた。
「お姉ちゃん!」
駆け寄ったわたしの手を、お姉ちゃんが振り払う。
体をふるふると震わせて。
「なんだ、すこしはあんたも気にしてるわけ? 思い出すと、吐き気がするくらいには」
幸野がお姉ちゃんをつめたく見下ろしながら笑う。
わたしはお姉ちゃんに寄り添って、その顔を見上げる。
「でもさ、ほんとうに吐きたくなるのって、そんなもんじゃねぇんだよ。四階から飛び降りたひとがどうなるか、見たことある? おれはあるよ。実の兄のをな」
お姉ちゃんが体をまるめ、苦しそうに咳きこんだ。
「お姉ちゃん……」
わたしはお姉ちゃんの背中をさすりながら、幸野の顔をにらみつける。
だけど幸野はわたしを見ていなかった。
ただじっと、うずくまるお姉ちゃんの背中を見ていた。
お姉ちゃんが幸野の顔に、バッグを投げつけた。
一瞬顔をそむけたあと、幸野はすぐにまた、お姉ちゃんを見つめて笑う。
「でもさ、こんなの仕返しっていうほどのもんじゃないでしょ? あまいよ。ぜんぜんあまい。あんたらの受けた傷なんて、蚊に刺された程度のもんじゃん」
そして幸野は一歩お姉ちゃんに近づいて、その顔をのぞきこむ。
「だけど匠はな、自分の命を投げ捨てたくなるくらいの傷を、あんたに負わされたんだよ。たったひとりで苦しんで苦しんで……あんたのせいで死んだ」
お姉ちゃんが口元をおさえる。
「幸野匠は、池澤莉乃に殺されたんだよ」
お姉ちゃんの体がその場に崩れ落ちた。
「お姉ちゃん!」
駆け寄ったわたしの手を、お姉ちゃんが振り払う。
体をふるふると震わせて。
「なんだ、すこしはあんたも気にしてるわけ? 思い出すと、吐き気がするくらいには」
幸野がお姉ちゃんをつめたく見下ろしながら笑う。
わたしはお姉ちゃんに寄り添って、その顔を見上げる。
「でもさ、ほんとうに吐きたくなるのって、そんなもんじゃねぇんだよ。四階から飛び降りたひとがどうなるか、見たことある? おれはあるよ。実の兄のをな」
お姉ちゃんが体をまるめ、苦しそうに咳きこんだ。
「お姉ちゃん……」
わたしはお姉ちゃんの背中をさすりながら、幸野の顔をにらみつける。
だけど幸野はわたしを見ていなかった。
ただじっと、うずくまるお姉ちゃんの背中を見ていた。