「やめなよ、だっせーよ、高二にもなって、いじめとか」
「いじめなんかするわけないでしょ!」
「じゃあどうして池澤さんは上履き履いてないんだろ」

 わたしはとっさに足元を見る。
 足の裏が汚れた靴下。

 今朝、下駄箱に入れてあった上履きがなくなっていた。
 でもこんなのはよくあることで、きっと校内のどこかに捨てられているんだろう。
 最初のころは職員室に行ってスリッパを借りていたけれど、最近は先生に不審がられるから、靴下のままでいる。

 わたしはゆっくりと顔を上げる。
 するとこっちを見ている幸野とまた目が合った。

「悟……あんた莉緒の味方なの?」
「いや」

 あかりの声に、へらっと笑って幸野が答える。

「おれは誰の味方でもないよ。ただ気づいたことを言っただけ。でもよそ者が口だすことじゃなかったな。疑ったりしてごめん」

 幸野があかりの前でぺこっと頭を下げた。
 あかりはあきれたように幸野を見下ろしている。

「あんた……変なやつだね?」
「よく言われる。頭おかしいんじゃない? って」

 顔を上げた幸野が、また笑った。
 くすくすとまわりから笑い声がもれる。

「まぁ、いいわ。第一小の仲間として許してあげる」
「や、どうも。あかりん」

 あかりがぷっと噴きだす。

「やめてよ、もうー! その呼び方!」
「え、だって、あかりんはあかりんだろ?」
「あたしもあかりんって呼ぼうかなー」
「あたしもー」
「ちょっ、やめてってばー!」

 あかりの甲高い声が教室内に響く。
 いつものように、楽しそうに。
 わたしはふうっと息を吐き、顔をそむける。

 あかりに歯向かうなんて……このクラスの人間だったらありえない。
 てっきり幸野まで、あかりの標的にされるのかと思ったけど……

 チャイムが響く。
 わたしは次の授業の準備をする。

 幸野悟って……やっぱり変なやつだ。