「だからあれほど言っただろ? ひとのこと、簡単に信じるなって」

 聞きなれた声が耳に聞こえる。
 短く息を吐きながら顔を向けると、通学バッグを肩にかけた幸野が教室に入ってくるところだった。

「あ、悟、おはよー」

 あかりの明るい声が響く。
 心臓がざわざわと騒ぎだす。

「見たよぉ、あんたが送ってくれた写真! いま莉緒にも送ってあげたの」

 幸野はわたしの席の前で立ち止まり、あかりに向かって言う。

「じゃあ、なにしてもらおうかなぁ、あかりんに」

 わたしは体を震わせながら、幸野の顔を見上げる。

「池澤さんとキスしたら、なんでも言うこと聞いてくれるって約束だったもんな」
「えー、だってマジでするとは思わなかったんだもん。ねー?」

 あかりがまわりのみんなに同意を求める。
 なんなの、それ。あかりと約束してたって……
 すると幸野があははっとおかしそうに笑った。

「おまえらのやってることはダサいって言ったろ? こうやってかわいがってやるんだよ、池澤さんみたいな子は」

 わたしは震える手を強く握りしめる。

 幸野はあかりたちと同類だったんだ。
 一緒にわたしのことからかって、わたしの反応を見て、陰で笑っていたんだ。
 つきあおうって言ったのも、わたしを好きだって言ったのも、キスをしたのも……ぜんぶうそだったんだ。