教室に近づくにつれ、足が鉛のように重くなる。
 でもそこに幸野がいるならと思って、無理やり足を進める。

 教室の前まで行くと、あかりの笑い声が聞こえてきた。
 一度深呼吸をしてから、静かになかに入る。
 その途端、ぴたりと笑い声が止まった。
 みんなのおしゃべりも消える。

 ぞくっと嫌な予感がした。
 あかりたちだけでなく、クラス中の視線がわたしに集まっている気がする。
 だけどわたしはなにも気づかないふりをして、自分の席に向かった。
 かすかなざわめきが、教室のなかに戻ってくる。

 ちいさく息をつき、席に座る。
 するとわたしの目の前に、あかりたちが集まってきた。
 わたしはなにを言われても動じないように、体を固くする。

「おはよ、莉緒」

 いつもは挨拶なんかしないくせに。
 黙って顔を上げたわたしの前で、あかりがにっこり微笑んだ。

「昨日は、楽しかった?」
「え?」
「悟と海に行ったんでしょ?」

 なんであかりが知ってるの?
 背中がひんやりと寒くなる。

 わたしの机を囲むように立っている、女の子たちの顔を見まわす。
 みんな声を出さずに笑っている。
 嫌な予感は当たった。でも意味がわからない。

「どうして知って……」
「クラス中のみんなが知ってるよ。写真見せてもらったから」
「写真?」

 わけがわからず、教室のなかを見る。
 こっちをうかがっている男子生徒、さっと顔をそむける女子生徒。
 心臓がばくばく嫌な音を立てる。