家のトイレからは、激しく嘔吐している気配がした。

「お姉ちゃん? 大丈夫?」

 ドアを叩いても、うめき声しか聞こえない。

「お姉ちゃん……」

 お父さんもお母さんも、まだ帰ってないみたいだ。
 どうしよう……お姉ちゃんがお酒に酔って、気分を悪くすることはあったけど、こんなにひどいのははじめて見た。

 心配で心配で、とりあえずタオルや水を用意してうろうろしていたら、お姉ちゃんがトイレから出てきた。真っ青な顔をして。

「お姉ちゃん、大丈夫?」

 駆け寄ってタオルと水を差しだす。
 けれどお姉ちゃんはそれを手に取らず、わたしに向かって叫ぶように言った。

「莉緒! あいつなんなの?」
「え……」
「あんなやつとつきあうのやめな! すぐ別れなよ!」

 呆然と立ちつくすわたしの前で、お姉ちゃんがくちびるを噛みしめる。

「ど、どうしてそんなこと言われなきゃなんないの?」

 お姉ちゃんはわたしから顔をそむけて続ける。

「見ればわかるじゃん! あんなチャラチャラした、見るからに遊んでそうな男。莉緒にぜんぜん似合わない!」

 わたしはタオルをぎゅっと胸に抱える。

「あんたはなんにもわかってないんだよ。ぼうっとしてるし、騙されやすいし。だからあたしの言うことを、黙って聞いてればいいの!」
「い、いやだ!」

 思わず叫んだわたしの声に、お姉ちゃんが驚いたように振り返る。
 もしかしたら、わたしがお姉ちゃんに歯向かうなんてこと、今日がはじめてかもしれない。