「あっれー? 莉緒?」

 薄闇のなかで声がかかった。
 家の門を開けようとしていたお姉ちゃんが、こっちを見ている。
 その手には、バイト先のケーキの箱。

「お姉ちゃん!」

 驚いたわたしは、とっさに幸野の手を離してしまった。

「え、うそ、もしかして彼氏と一緒?」

 お姉ちゃんが大きな声でそう言って、嬉しそうにこっちに近づいてくる。

「お、お姉ちゃん。またお酒飲んでるの?」
「んー、ちょっとだけね。それより莉緒の彼氏くん! はじめまして!」

 お姉ちゃんがわたしたちの前でけらけら笑い、陽気な声を出す。
 もう、お姉ちゃんってば、ぜったい酔ってる。
 するとわたしのとなりで幸野がちょっと笑って、お姉ちゃんに向かって言った。

「はじめまして。池澤莉乃さん」
「ん?」

 お姉ちゃんは一瞬不思議そうな顔をしたあと、すぐにまた笑顔を見せた。

「うん、そうそう、莉乃だよー! よく知ってるね。いつも妹がお世話になってまーす! あ、そうだ、ケーキもらってきたんだ。うちで一緒に食べてかない?」
「もうお姉ちゃんってば、やめてよ」

 わたしはケーキの箱を高く掲げた、お姉ちゃんの服をつかむ。
 そのとなりで幸野が言う。

「楽しそうでいいですね」
「うん、楽しいよー。あたしは毎日、楽しいのー」

 へらへら笑っているお姉ちゃん。もう、恥ずかしいなぁ。
 困ったわたしの耳に、幸野の声が聞こえた。