最寄り駅に着いたのは、だいぶ遅い時間だった。
 といっても、普通の高校生だったら、まだ遊び歩いている時間なのかもしれない。
 でも普段家にこもってばかりいるわたしにとって、こんな時間に家族以外と外にいるなんて、ちょっぴり悪いことをしている気分だった。
 朝帰りしているようなお姉ちゃんに言ったら、笑われてしまいそうだけど。

「うちのひとに、連絡しなくて大丈夫?」
「う、うん。へいき」

 とはいいつつ、もしかしたらお母さんは心配しているかも、なんて思う。

「家まで送るから」
「……ありがと」

 なんだかさっきから幸野がやさしい。
 触れ合ったくちびるのやわらかさを思い出し、また顔がかあっと熱くなる。

 ふたりで夜の道を歩く。
 だけどわたしは幸野としゃべれない。
 変なやつだと思われているかもしれない。
 幸野に気づかれないよう、何度もため息を漏らす。

「あの、さ」

 となりから幸野の声が聞こえてきた。

「もし、池澤さんがよかったら、だけど」

 わたしたちはいつもの歩道橋の上まで来ていた。

「また一緒にどこか行かない?」

 幸野の足が止まる。
 わたしも立ち止まり、ゆっくりと幸野の顔を見上げる。

 歩道橋の下を、ヘッドライトをつけた車が行き交う。
 街の照明が輝いていて、でも橋の上は薄暗くて。
 幸野はそこで、まっすぐわたしのことを見つめている。

「……うん」

 また一緒に。
 約束したら、それまで生きてくれるよね?
 消えちゃえばいいなんて、思わないよね?

「今度はお昼、わたしがおごる」

 わたしの前で、幸野が笑った。
 だからわたしも嬉しくなって、やっと幸野の前で笑えた。
 わたしたちは手をつなぎ、家に向かってまた歩きはじめた。