頭のなかに渦巻く、甲高い笑い声。
 どんなに耳をふさいでも、離れてくれない。

 明日もまた、こんな日が続くの?
 明日もまた、あの笑い声を聞かなきゃいけないの?
 明日なんか、来なければいいのに。

 歩道橋の真ん中で立ち止まる。
 遠くの空が、淡いピンク色に染まっている。
 やがて夜が来て、また朝が来る。
 明日は必ずやってくる。

 だったら――

 国道を走る車を見下ろし、手すりに手をかけた。
 交差点に灯る赤信号。
 遠くで鳴り響くクラクション。

 だったら、わたしが消えちゃえば、いいんじゃない?

 手すりをつかんだ手に、ぐっと力をこめた、そのとき――

「あのー」

 ビクッと心臓が跳ねた。

「ちょっと道、教えてほしいんだけど」

 ゆっくりと振り返ったわたしの目に、見知らぬひとの姿が映る。

 すらりと細身で背が高い、黒いジャケットを着た高校生くらいの男。
 髪は金髪に近い明るい色で、耳にはシルバーのピアス。
 長めの前髪の隙間から、切れ長の瞳がこちらを見ていて、口元にはうっすらと笑みを浮かべている。

「駅ってこっちであってる? このへん、久しぶりだから忘れちゃって」

 白い息を吐いた男が、右に見える階段を指さして言う。
 わたしは黙ったままうなずいた。

「あー、やっぱ、こっちか。どうも」

 安心したように微笑むと、男は右に向かって歩きだす。
 しかしすぐに振り向いて、わたしに聞いた。