床は赤い絨毯が敷き詰められ、壁の明り取り用の窓にはガラスが使用され。そんな内装をさらに輝かせる光源にはランプやシャンデリアが掲げられている。

 この国の贅の限りを尽くして豪華絢爛に飾り立てられた大きな広間の一番高い場所。そこには、この国で最も高貴な者が、ひときわ豪華な金の椅子に深々と腰掛けていた。

「エネゾルよ。これを予《よ》に献上するとな?」
「はっ!」

 王は、今しがた献上されたばかりの書物を手に取り開いてみせた。すると中を見て一瞬だけ顔をしかめ、そして平身低頭する臣下を皮肉げに見下ろしながら口を開く。

「ふむ。見慣れない文字ばかりのようだが、これは?」

 エネゾル男爵が答える。

「それは魔導書にございます。隠れ里に住む者たちの物で、何でも異界の者を召喚できるとか」

 すると王は面白そうに言った。

「ほぅ。異界の者とな?」
「はっ」
「して。どのようにして使う?」
「所持しているだけで、資格ある者を呼び寄せるとか」
「ほぅ。それは真《まこと》か?」
「私めはそう聞いておりますれば」

 すると王はわずかに思案した後で言った。

「分かった。良いだろう。これはしばらく我が城で預かろう。しかしだ。エネゾルよ。もしこれが偽物の類《たぐい》であったのなら、その時は…… 分かっておろうな?」
「……はっ!」
「下がって良いぞ」

 この時、エネゾル男爵は臣下の礼として膝を付き頭を下げていた。しかしその下げられた顔には酷薄な表情が張り付き、ニヤリとほくそ笑んでいたのだった。