「密葉ぁ!こっちこっち!!」

大きな声をだす桃が、私を呼ぶ。
小学校も制服だったから、私服姿の桃を見るのは初めてだった。


「今日山本君と宮崎君もいるよ」


引っ越すという事を桃に伝えれば、凄く悲しい顔をして。お別れ会をしよう言ってくれた桃。

だから学校が終わった放課後、再度集まってカラオケでお別れ会をしてくれるらしく。


もう何人かが集まってくれているらしく、部屋の前で待っていてくれた桃。

部屋の中には桃以外の友達や、山本君と宮崎君がいて。
私の為にこんなにも集まってくれた事が嬉しかった。





トイレにたち、一緒についてきた桃が、申し訳なさそうに口を開いた。

「密葉、本当に良かった?お別れ会·····、無理してない?」


侑李の事を気にする桃·····。



「無理してないよ」

「本当?」

「うん、今日はお兄ちゃんが侑李の所に行ってくれてるから」


兄な相談すると、「行ってこいよ」と当たり前のように言ってくれて。兄に任せた私は、こうして桃が開いてくれたお別れ会へ来ることが出来て。


「なんか密葉、変わったね」

「そうかな?」

「うん、素直になった」


桃はふふふと可愛く笑う。

もう桃ともしばらく会えないと思ったら、寂しくなった。小学校からずっと一緒だった友達だから。


「あのね桃言ってなかったんだけど·····、私付き合ってる人がいるの」

「え!ほんとに!?」

驚いた桃は、大きな声を出した。


「うん、私が素直になったのはその人のおかげ」

「そう·····、良かったね、ほんとに良かった」


泣きそうになっている桃は、「良かったね」ともう一度呟いた。


「うん、ありがとう桃·····」

「またその人に会わせてね」

「うん」


私と和臣は別れないから、いずれは桃に会うことになる。それはきっと間違いないから。


「実はさ私もね、最近彼氏できたの·····」

「え、ほんとう?」

「うん、山本君なんだ·····」

「え?山本君?」


山本君って·····、私に告白してくれた?
今カラオケに来てるよね?


「密葉に挨拶してたじゃん?それ見て一途だなーって思って、気になりだしてさ?連絡取り始めて·····、告ったらOKくれて。ごめんね、密葉」

「どうして謝るの?」

「だって私すごく山本君と付き合えばいいのにって言ってたでしょ?それなのに、どうなのって感じだし·····。言い訳になるかもしれないけど、ホントに今日言おうと思ってて·····ごめんね」

「もう謝らないでよ、桃は私の事を考えてくれてたんでしょ?」


ずっと桃と一緒にいれば分かる。桃はこそこそするタイプじゃない。
侑李のことで精一杯の私に言えなかったんだ。ずっと言いたくて仕方が無かったはずなのに。



「良かったね、桃」

「うん、ありがとう密葉·····。侑李君、きっと良くなるよ。絶対良くなる·····」

「うん」



部屋に戻り山本君に「聞いたよ?おめでとう」というと、顔を赤らめて「桃っ」と、桃を見ていた。

私はそれを見て笑った。

山本君と桃の雰囲気を見ながら、和臣を思い出し、私も好きな人に会いたいと思った。



1ヶ月というものは本当に短く、けれども侑李を思えば1ヶ月は本当に長い。

侑李にしてみれば、きっと一日がとても長く感じるのだろう。



「寂しくなるわ密葉ちゃん·····、またいつでも来てね」

「はい」

和臣の家に遊びに行けば、和臣のお母さんに泣きながらそう言ってくれて。

明日引っ越す私は、どうしても引っ越す前に和臣の両親に挨拶をしておきたかった。







家まで私を送ってくれた和臣は、ヘルメットをとり、自らもバイクから降りた。

もう荷物をまとめていて、明日は朝早くに出発だから、もう和臣と引っ越し前に会えるのは今日しかなくて。


「·········密葉····」

これが最後だと·····。しばらく会えないから·····。会えないけど、和臣は私が呼べば来てくれるだろう·····。

ずっと私を抱きしめる男は、そういう男だから。


「密葉?」


こんなにも優しく、甘い声を聞くのは、これからも私だけ。嬉しくて、私も和臣の背中に手をまわした。


「·····なに?」

大好きな人·····。


「俺とずっと一緒にいろよ」

甘い声が、耳に届く。


「うん、いるよ。ずっと一緒にいる」

「ずっとだぞ?」

「うん」


ずっと一緒にでしょ?
分かってるよ。
和臣は私を手放さないって信じてるし、私も和臣がいない未来なんて考えられないから。


「ずっとな」

「うん」

「ずっと一緒だからな?」

「·····?·····ねぇ、何回いうの?」

何回も言う和臣を不振に思い、顔をあげた。


「なあ、意味分かってる?」

「意味?」


ずっと一緒の意味?

え?

意味?

意味とは?


「ずっと一緒にいるんでしょ?」

「うん」

「え?分かってるよ?」



離れていても、ずっと一緒に。
これからも。



「じゃあプロポーズ、大成功ってことで」


プロポーズ·····?
え·····?

プロポーズって·····。



体を少し離した和臣は、私に向かって「左手出して」と言う。

左手·····。

言われるがまま左手を出した。割れていたはずの爪は、もう綺麗に完治していて。


「俺と結婚しような」

その爪を通り、薬指にピンクゴールドの指輪がはめられていく。

呆気にとられている私は、ネックレスとイヤリングのデザインと一緒·····と、ただ見つめるだけで。


私の左手の薬指に可愛い花が咲く。



「·····これ·····」

「俺、お揃いとかそういうの、ガキっぽいなって思ってて。よくあるだろ?ペアリンとか」

「··········」

「だから、俺は持ってない。これはペアじゃないしな」

「·····ちょ、ちょっと待って·····」

「何?」


何?と言われても·····。
まだプロポーズという言葉で戸惑っているから。

「もちろん、俺の金だぞ? 足折る前まではずっとバイトしてたし。あんま使ってなかったから」


そうじゃなくて·····。


指輪を見つめた後、和臣の方へと視線を向けて·····。


「プロポーズって·····」

「うん、ずっと一緒にいてくれって、プロポーズだろ?」

「そうなの?」

「そうだよ、ずっと一緒にいるんだから、そういう事だろ?」


それは確かに·····。
ずっと一緒にいるんだこら、いずれは結婚とか?するかも·····?


え·····?


「これは婚約指輪っつーことで。プロポーズ受けたんだから、返すなよ?」


婚約指輪?
私の?
和臣から?


やっと理解できた時には、ぽたぽたと涙が零れていた。



「·····返さないよ·····」

「うん」

「絶対返さない·····」

「そうしてもらえると嬉しい」



私は和臣の胸に飛び込んだ。
それを受け止めてくれる和臣は、痛いぐらい私を抱きしめる。


「大事にしろよ?」

泣いて、嬉しくて、もう声さえ出なくて、私は腕の中で何度も頷いた。



大好きな和臣。


「愛してるよ」

まさかそんなセリフが聞けるとは思えず、私もだと、泣きながら何度も言った。


心がはち切れそうになる。
それを受け止めてくれる人がいると思ったら、すごく嬉しくて。





落ち着いた頃、「どうして指輪のサイズが分かったの」と聞いた。

「前にラブホ行った時、密葉が寝てるとここっそり測った。起きたらどうしようって、すっげぇ緊張した」

想像すると、思わず笑いそうになる。

暴走族の総長で不良なのに、こっそり指のサイズをはかるなんて。


「何年かかっても、ずっと待ってるから」

「うんっ··········」

「これからもずっと密葉だけだ」



私もだよ。
私もずっと和臣だけを思ってる。


大事にしたい。
大切にしたい。


こんなにも私を思ってくれる人は、家族以外ではきっと和臣だけしかいない·····。

いつでも見守ってくれ、いつまでも待っててくれる人。
それを全く疑わないのは、和臣を信用しているから。


━━━私の心はもう、壊れることはないだろう。


心配してくれる兄がいる。
抱きしめてくれる母や父がいる。
「お姉ちゃん」と頼ってくれる弟がいる。
離れていても、想ってくれる人がいる。


もう、私の心は迷うことはないから·····。











おわり