このままずっと和臣のそばにいて、侑李と離れれば、昔の私に戻る。
侑李が生まれる前の、我慢するとう言葉を知らない私に。
「·····母さん達は知らなかったわ·····。和臣君は全て知って、密葉の事を理解してくれるのね」
私の事を全て理解している和臣。
「そうだよ、和臣からはちゃんと連絡来る。今日の密葉の様子少し変だったから、家でも様子見てくれとか。すげぇ些細な事でも気づいてた」
私の知らないこと·····。
そういえば度々言っていた。
大和から聞いたって。
それは兄と連絡を取り合ってたってこと。
私の様子を。
「あいつの密葉を思う気持ちは相当だよ。会って分かっただろ?」
私がおかしくなるのは、和臣という名の薬の副作用みたいなものなのに、わざと自分を悪者にして·····。
私をこれ以上戸惑わせないように。
私の事を大事に思ってくれている和臣·····。
「俺は思った。密葉がこれ以上おかしくなるんなら、1回精神科っつーのに、診てもらった方がいいかもって」
精神科·····。
「それをフジにも言ったことがある。フジも密葉の事は理解してたから。けど···、やっぱりあいつすげぇよ。俺らよりも密葉の事を考えてるよ········。密葉に必要なのは医者じゃない、フジだったんだよ」
私に必要なのは·····。
「だから密葉が完璧に治るまで、フジと一緒にいるべきなんだよ·····」
和臣と一緒にいるべき。
私と侑李だけの世界を壊すには、和臣と一緒にいること·····。
和臣が、私の治療薬·····。
和臣は私に言った。和臣と出会ってから、おかしくなったと。和臣と関わって私だけが幸せになってはいけないと思うようになったからって。
でもそれは間違っていて。
和臣と出会ってから、私は昔の私に戻ろうとしていた。こうなる前の私に。我慢という言葉を知らない私に。
侑李に対して、嫉妬しない昔まで。
けど、侑李を殺しかけたっていう事が、それを無意識にストップさせてしまう。それがあの侑李だけの世界を蘇らせてしまう。
そうか·····、そうだったんだ。
━━━━━━━ふと、頭に浮かんだ。
これが真実ならば、私は·········。
私を信じていてくれた和臣·····。
その信じるとはつまり、この事を自分で気づくことだったんじゃないかって。
「フジは言った。今診てもらうはダメだって。密葉にそれを言えば密葉自身が「病気かもしれない」って気持ちに戸惑って、治りかけてんのに、それは逆効果だって」
ほら、やっぱりそうじゃない·····。
他人から「お前は病気だ」って言われるのと、
自分自身で気づくのでは、全く意味が違ってくる。
兄がいうように、きっと「精神科に行こう」って言われていたから、私は「病気じゃない!」っておかしくなっていたかもしれない。
侑李と2人だけの世界を、壊すことが怖かったから。
でも今は理解している。
このままじゃいけないと。
和臣はそれを私に分からせようとしてたんだ。自分を悪者にしてまで。遠回しに、私へ伝えようとしてくれていた。
私を信じてくれている和臣·····。
いつの間にか創り上げていた世界·····。
自分自身で、現実世界に戻ること·····。
この侑李だけの世界を、自らの手で壊すこと。
和臣と出会うまで、侑李だけの世界があったっていうのも分からなかった。私が無意識に作ってしまっていたから。
やっと現実世界に戻ってきた私は··········。
━━━━和臣の声が聞きたいと思った。
気づけば、涙は止まった。
ゆっくりと、3人の前へと歩き出す。
「お兄ちゃん、もういいよ」
そう言うと、3人は私がいた事に驚いたのか、私の方に顔を向けた。
「密葉·····、聞いてたのか?」
しまったという顔をした後、じっ·····と私の顔を見る兄は、また驚いている顔をして。
「うん。これ、コーヒーね。ここ置いとくね」
待合のイスの前にあるテーブルに、鞄から人数分の飲み物を取り出した。
「密葉·····、ごめんね、ごめんなさい·····。密葉がこんなにも辛い思いをしてるなんて·····気づけなくてごめんなさい·····」
「お母さん、いいよ」
泣いている母が私の元にやって来て、和臣がいつもしているように、母も私を痛いぐらいに抱きしめた。
母に抱きしめられるなんて、何年ぶりだろう。
「密葉、本当にすまない·····」
「いいよ、お父さん」
お父さんが頭を下げてきて、私は「もう謝らないで」と笑った。
「密葉、大和から話は聞いたわ·····」
ずっと抱きしめる母が、すごく温かかった。
「うん」
「密葉はここに·····残りなさい·····」
「お母さん·····」
「本当に、ごめんね密葉·····」
「うん·····」
「母親失格だわ·····、真っ先に気づかなくちゃいけないのに·····」
「父さんも失格だ。悪かった···」
「そんな事ない、それを言うなら私だって姉失格だよ。弟に嫉妬してたんだから·····」
「密葉·····」
「じゃあ、俺も兄失格って事で。分かっていながら密葉をほっといた俺も悪い」
「お兄ちゃん··」
兄の方を見れば、笑っていて。
その瞳には、うっすらと涙が浮かんでいた。
「昔の密葉だ·····」と、ポツリと呟いた。
その呟きを聞いて、私は笑った。
「お母さん」
「なに?どうしたの?」
慌てて聞く母に笑いかける。
「もっとぎゅってして」
母は私を見て優しく笑い、長い時間私を抱きしめてくれた。横から「父さんの所には来ないのか?」と言われ、私は笑って父に抱きついた。
いてもたってもいられなかった。
私は「電話してくる!!」と、検査が終わった侑李の病室に向かう3人に向かって言った。
いつもなら必ず私も行っていたけど。
「早く戻ってきなさいね」
「うん」
和臣の声を聞きたくて仕方がなかった。
病院内の電話ができる場所へと小走りで向かい、私はスマホを手に持った。
着信履歴から、和臣のスマホへと電話をかける。
プルルルという効果音が、すごく長く感じた。
プッと、効果音が切れた音がして、繋がったと思った私は、「あ、あの·····」と、声を出した。
まだ和臣の声を聞いたわけではないのに。
「あたし·····」
『うん』
「密葉だけど·····」
『うん、分かるよ』
スマホ越しから聞こえる和臣の声が、すごく穏やかで優しい声で。
ドキドキ··········と、こころが鳴った。
『何かあった?』
「うん」
『どうした?』
「和臣·····」
『ん?』
言いたいことが沢山あるのに、上手く言えない。和臣の名前しか出てこない。
それが和臣に伝わったのか、『ゆっくりでいいよ』と言ってくれて。
落ち着くために、1回深呼吸した。
「·····分かったの·····」
『うん』
「私、すごく和臣に想われてたんだなぁって」
『何を今更、やっと気づいたのか』
そういう和臣は笑っていて。
「ありがとうって、言いたくて」
『うん』
「私を連れ出してくれてありがとうって」
侑李だけの世界から。
侑李の2人だけの世界から·····。
『密葉、気づいてるか?』
嬉しそうに言う和臣。
嬉しそうに言っているけど、和臣の言っていることが分からなくて。
「··え···?······何に?」
『密葉から電話、初めてなんだよ』
「え?」
そう言われてみれば·····。
いつも電話は和臣が掛けてきていた。
私から連絡する事は無かった。
『何かあったらすぐに電話しろって、俺ずっと言ってただろ?』
「うん」
『俺を頼れって』
「うん」
『つまりな?密葉が俺に連絡をとるってことは、俺に対して心を開いた瞬間なんだよ』
「··········え?」
『もう、自分でも分かってるだろ?』
「··········」
『さっきも、自分で言ってただろ?』
連れ出してくれてありがとうと。
ずっと侑李の世界にいた私は、和臣と付き合っていること自体、本当はよく思っていなかった。
これでいいのかなってずっと思ってた。
和臣にも、これでいいのかと言ったことがある。
だから私は和臣を頼らなかった。
両親から転院という話を聞いた日、まだ余裕はあった。自分で和臣に連絡をすることは出来ていたと思う。和臣に相談も出来たはず。
でも私は、それをしなかった。
和臣を頼りきれていなかったから。
「ねぇ」
『ん?』
「ずっと待っててくれたの?」
『密葉の電話を?』
「うん」
『待ってたよ、電話鳴った瞬間、すぐ目ぇ覚ますぐらい耳が敏感なった』
ふと、和臣が私の部屋で寝ていたことを思い出した。眠っていたはずの和臣が、スマホの着信音が流れた瞬間、目を覚ましたことを。
もう侑李の世界に捕らわれない。
和臣に頼ることだってできるし、信じることだってできる。もう、私の中に「私だけが」というストッパーは無いのだから。
和臣へ私から連絡をした瞬間が、私が創り上げた世界が、崩壊する合図だったのだ。
侑李が生まれる前の、我慢するとう言葉を知らない私に。
「·····母さん達は知らなかったわ·····。和臣君は全て知って、密葉の事を理解してくれるのね」
私の事を全て理解している和臣。
「そうだよ、和臣からはちゃんと連絡来る。今日の密葉の様子少し変だったから、家でも様子見てくれとか。すげぇ些細な事でも気づいてた」
私の知らないこと·····。
そういえば度々言っていた。
大和から聞いたって。
それは兄と連絡を取り合ってたってこと。
私の様子を。
「あいつの密葉を思う気持ちは相当だよ。会って分かっただろ?」
私がおかしくなるのは、和臣という名の薬の副作用みたいなものなのに、わざと自分を悪者にして·····。
私をこれ以上戸惑わせないように。
私の事を大事に思ってくれている和臣·····。
「俺は思った。密葉がこれ以上おかしくなるんなら、1回精神科っつーのに、診てもらった方がいいかもって」
精神科·····。
「それをフジにも言ったことがある。フジも密葉の事は理解してたから。けど···、やっぱりあいつすげぇよ。俺らよりも密葉の事を考えてるよ········。密葉に必要なのは医者じゃない、フジだったんだよ」
私に必要なのは·····。
「だから密葉が完璧に治るまで、フジと一緒にいるべきなんだよ·····」
和臣と一緒にいるべき。
私と侑李だけの世界を壊すには、和臣と一緒にいること·····。
和臣が、私の治療薬·····。
和臣は私に言った。和臣と出会ってから、おかしくなったと。和臣と関わって私だけが幸せになってはいけないと思うようになったからって。
でもそれは間違っていて。
和臣と出会ってから、私は昔の私に戻ろうとしていた。こうなる前の私に。我慢という言葉を知らない私に。
侑李に対して、嫉妬しない昔まで。
けど、侑李を殺しかけたっていう事が、それを無意識にストップさせてしまう。それがあの侑李だけの世界を蘇らせてしまう。
そうか·····、そうだったんだ。
━━━━━━━ふと、頭に浮かんだ。
これが真実ならば、私は·········。
私を信じていてくれた和臣·····。
その信じるとはつまり、この事を自分で気づくことだったんじゃないかって。
「フジは言った。今診てもらうはダメだって。密葉にそれを言えば密葉自身が「病気かもしれない」って気持ちに戸惑って、治りかけてんのに、それは逆効果だって」
ほら、やっぱりそうじゃない·····。
他人から「お前は病気だ」って言われるのと、
自分自身で気づくのでは、全く意味が違ってくる。
兄がいうように、きっと「精神科に行こう」って言われていたから、私は「病気じゃない!」っておかしくなっていたかもしれない。
侑李と2人だけの世界を、壊すことが怖かったから。
でも今は理解している。
このままじゃいけないと。
和臣はそれを私に分からせようとしてたんだ。自分を悪者にしてまで。遠回しに、私へ伝えようとしてくれていた。
私を信じてくれている和臣·····。
いつの間にか創り上げていた世界·····。
自分自身で、現実世界に戻ること·····。
この侑李だけの世界を、自らの手で壊すこと。
和臣と出会うまで、侑李だけの世界があったっていうのも分からなかった。私が無意識に作ってしまっていたから。
やっと現実世界に戻ってきた私は··········。
━━━━和臣の声が聞きたいと思った。
気づけば、涙は止まった。
ゆっくりと、3人の前へと歩き出す。
「お兄ちゃん、もういいよ」
そう言うと、3人は私がいた事に驚いたのか、私の方に顔を向けた。
「密葉·····、聞いてたのか?」
しまったという顔をした後、じっ·····と私の顔を見る兄は、また驚いている顔をして。
「うん。これ、コーヒーね。ここ置いとくね」
待合のイスの前にあるテーブルに、鞄から人数分の飲み物を取り出した。
「密葉·····、ごめんね、ごめんなさい·····。密葉がこんなにも辛い思いをしてるなんて·····気づけなくてごめんなさい·····」
「お母さん、いいよ」
泣いている母が私の元にやって来て、和臣がいつもしているように、母も私を痛いぐらいに抱きしめた。
母に抱きしめられるなんて、何年ぶりだろう。
「密葉、本当にすまない·····」
「いいよ、お父さん」
お父さんが頭を下げてきて、私は「もう謝らないで」と笑った。
「密葉、大和から話は聞いたわ·····」
ずっと抱きしめる母が、すごく温かかった。
「うん」
「密葉はここに·····残りなさい·····」
「お母さん·····」
「本当に、ごめんね密葉·····」
「うん·····」
「母親失格だわ·····、真っ先に気づかなくちゃいけないのに·····」
「父さんも失格だ。悪かった···」
「そんな事ない、それを言うなら私だって姉失格だよ。弟に嫉妬してたんだから·····」
「密葉·····」
「じゃあ、俺も兄失格って事で。分かっていながら密葉をほっといた俺も悪い」
「お兄ちゃん··」
兄の方を見れば、笑っていて。
その瞳には、うっすらと涙が浮かんでいた。
「昔の密葉だ·····」と、ポツリと呟いた。
その呟きを聞いて、私は笑った。
「お母さん」
「なに?どうしたの?」
慌てて聞く母に笑いかける。
「もっとぎゅってして」
母は私を見て優しく笑い、長い時間私を抱きしめてくれた。横から「父さんの所には来ないのか?」と言われ、私は笑って父に抱きついた。
いてもたってもいられなかった。
私は「電話してくる!!」と、検査が終わった侑李の病室に向かう3人に向かって言った。
いつもなら必ず私も行っていたけど。
「早く戻ってきなさいね」
「うん」
和臣の声を聞きたくて仕方がなかった。
病院内の電話ができる場所へと小走りで向かい、私はスマホを手に持った。
着信履歴から、和臣のスマホへと電話をかける。
プルルルという効果音が、すごく長く感じた。
プッと、効果音が切れた音がして、繋がったと思った私は、「あ、あの·····」と、声を出した。
まだ和臣の声を聞いたわけではないのに。
「あたし·····」
『うん』
「密葉だけど·····」
『うん、分かるよ』
スマホ越しから聞こえる和臣の声が、すごく穏やかで優しい声で。
ドキドキ··········と、こころが鳴った。
『何かあった?』
「うん」
『どうした?』
「和臣·····」
『ん?』
言いたいことが沢山あるのに、上手く言えない。和臣の名前しか出てこない。
それが和臣に伝わったのか、『ゆっくりでいいよ』と言ってくれて。
落ち着くために、1回深呼吸した。
「·····分かったの·····」
『うん』
「私、すごく和臣に想われてたんだなぁって」
『何を今更、やっと気づいたのか』
そういう和臣は笑っていて。
「ありがとうって、言いたくて」
『うん』
「私を連れ出してくれてありがとうって」
侑李だけの世界から。
侑李の2人だけの世界から·····。
『密葉、気づいてるか?』
嬉しそうに言う和臣。
嬉しそうに言っているけど、和臣の言っていることが分からなくて。
「··え···?······何に?」
『密葉から電話、初めてなんだよ』
「え?」
そう言われてみれば·····。
いつも電話は和臣が掛けてきていた。
私から連絡する事は無かった。
『何かあったらすぐに電話しろって、俺ずっと言ってただろ?』
「うん」
『俺を頼れって』
「うん」
『つまりな?密葉が俺に連絡をとるってことは、俺に対して心を開いた瞬間なんだよ』
「··········え?」
『もう、自分でも分かってるだろ?』
「··········」
『さっきも、自分で言ってただろ?』
連れ出してくれてありがとうと。
ずっと侑李の世界にいた私は、和臣と付き合っていること自体、本当はよく思っていなかった。
これでいいのかなってずっと思ってた。
和臣にも、これでいいのかと言ったことがある。
だから私は和臣を頼らなかった。
両親から転院という話を聞いた日、まだ余裕はあった。自分で和臣に連絡をすることは出来ていたと思う。和臣に相談も出来たはず。
でも私は、それをしなかった。
和臣を頼りきれていなかったから。
「ねぇ」
『ん?』
「ずっと待っててくれたの?」
『密葉の電話を?』
「うん」
『待ってたよ、電話鳴った瞬間、すぐ目ぇ覚ますぐらい耳が敏感なった』
ふと、和臣が私の部屋で寝ていたことを思い出した。眠っていたはずの和臣が、スマホの着信音が流れた瞬間、目を覚ましたことを。
もう侑李の世界に捕らわれない。
和臣に頼ることだってできるし、信じることだってできる。もう、私の中に「私だけが」というストッパーは無いのだから。
和臣へ私から連絡をした瞬間が、私が創り上げた世界が、崩壊する合図だったのだ。