「·····いや、今の顔すげぇ可愛いなって思って」
そう言われて、顔が赤くなるのが分かった。
恥ずかしくて、咄嗟に顔を下に向けた。
その瞬間、撫でれる頭·····。
なんともいえない感情が芽生え始める、やめてと言わなきゃいけないのに、和臣の手が心地よくて。
「飯、食ってねぇんだって?」
「·····」
「なんで食ってない?」
兄から聞いたのだろう。そうとしか考えられない。だからって、どうして和臣に話す必要があったの。
「お兄ちゃんになに言われたか知らないけど·····、ちゃんと食べてるよ」
「じゃあ今からラーメンでも行くか?」
「え?」
「食ってんなら、それぐらい食べれるだろ?結構美味いとこ知ってるから」
ラーメンって·····。
「行かない·····、デートみたいな事しないから」
「弟が食べないからか?」
落ち着いた声で喋る和臣。
そっと和臣を見あげれば、真剣な顔つきの和臣がそこにいて。暗闇の中でも光るピアスが、目に入った。
「弟が大事なことは分かる、密葉を見てれば、すげぇ大事に思ってるんだなって。可愛いしなニコニコ笑ってて」
私が侑李を大事に?
「俺も妹いるけど、もし妹が病気になったら、今と違う接し方っつーか·····、今も家族として大事に思ってるけど、大事の仕方が違うと思う。密葉みたいに、ずっと一緒にいてやりたいって思うし」
和臣の言いたいことは、何となく分かる。
私も家族は大事。兄も両親も大事だけど、侑李を‘大事にする’というのは意味が違ってくる。
家族は、離れていても大事な存在。
侑李は、近くで守らないといけない大事な存在。
「でも、いざとなったら、俺はそういう行動移せんのかって思うんだよ。ずっと一緒にいてやれるのかって」
「··········」
「病気の妹のために、族をやめれるか? 学校をやめるか? 友達と遊びに行くことも、こうして好きな女と会うことをやめれるか?って」
「··········」
「無理だと思った、いくら妹が大事でも、やっぱり限度ってもんがあるって。お見舞いとか毎日行くにしても、やっぱり遊びてぇ時はあるし、今の生活を急に変えろって言われて、そう簡単に変えれるもんじゃねぇしな·····」
「··········うん·····」
「だから、密葉がすげぇと思った。弟のために、ここまでできるんだなって」
「··········そんなこと·····」
「そういうとこ、好きだと思った」
和臣は穏やかな顔つきで、笑いかけてくる。
頭を撫でる仕草をやめない和臣は、私をジッと見つめてきて。
「初めて会った時に一目惚れして好きって思ってたけど、あん時より、気持ちは大きい。密葉の優しいところとか、涙がもろいとことか、気を使うとことか、そういうの知る度に密葉のことが好きになった」
「·········」
「だから、俺にとってすげぇ大事な存在なんだよ、密葉は」
「··········」
「今も、これからも、変わらない。ずっと密葉のことを想ってる。密葉が思ってるより、本気なんだよ」
撫でていた手は、ゆっくりとおろされ、私の頬を包んだ。
「だから、雨に濡れたら風邪ひかねぇかって心配するし、痩せてたら、ちゃんと食ってんのかって心配する。密葉が弟を思うみたいに、俺だって密葉が心配でたまらない」
「··········」
「言ってる意味、分かるか?」
和臣にとって、私は大事な存在。
私が侑李のことを思うように·····。
「分かんねぇなら、ずっと同じこと言い続けるけど」
分かるよ。言ってる意味は分かるの·····。
和臣の告白が嬉しくてたまらない。和臣がどれだけ私を心配してくれてるのかも。
「··········密葉?」
涙が頬を伝う。
和臣の指先が、涙を拾い。
「あたし·····、間違ってるの·····?」
声が震える。和臣に伝わっているかさえ分からない。
「どうしてそう思う?」
「だって·····、だって··········」
本当は、兄の言っていることを理解しているから。侑李と同じように食べないことだって、学校へ行かないことだって、本当はしてはいけないって分かってるの。
自分でおさえているだけで、我慢してるだけで、本当はお腹がすいてたまらないのに。
お腹がすいて、苛立つこともあって、栄養が足りてないからすぐに息切れもして。
このままじゃダメ·····って分かってた。
だけど、
「どう、すればいいの··········」
「密葉」
「私は侑李が大事で·····!私が、私が、侑李のためなら何だってするって決めたの·····!」
「なんで密葉だけなんだ?大和もいるだろ?大和と一緒に弟を支えていけばいいだろ?」
「ダメっ、そんなの、私がみないといけないのっ!」
泣きじゃくる私を、落ち着かせるように和臣が背中を撫でてきて。
「ゆっくりでいいから、なんで密葉だけか教えてくれ。大和がダメは理由はなんだ?」
兄がダメな理由?
そんなの、いつもいつも遊んでばっかりいるからっ。全然病院も来ないから!
「お兄ちゃんは、全然お見舞い来ないっ!」
「うん」
「家事もっ、私がしないと!お兄ちゃんは全然家に帰ってこないし!私がするしかっ·····」
「帰ってこねぇの?」
「そうだよ!夜もすぐどこか行くし、朝帰りが当たり前だし!」
息が切れる。
「お母さん達だって、すぐに行っちゃう·····。お父さんも·····、侑李の事を心配してるのは、私だけなの··········」
「そうか·····」
「だから·····あたし一人で·····」
本当に?
本当に、そうなの?
兄は·····、両親は·····。
侑李の事を大事にしてないって言える?
侑李が発作で意識を失った時、すぐに駆けつけた両親。そして泣く私をずっと支えてくれた兄が·····、侑李を心配してないと?
‘おねぇちゃん·····行かないで·····’
「ほ、んとは、知ってるの·····」
「なにを?」
「ほんとは、お兄ちゃんが、ずっとバイトしてるの知ってるのっ·····、遊びに行ってないこと、知ってるの!!」
「うん」
「ずっと、寝る間もおしんで、侑李の入院費とか、手術費用、貯めてるの知ってるの!」
「うん」
「知らないふりしてるだけっ、だって、そうしないと、私が何もしてないみたいになっちゃうからっ!」
侑李の病気の治療は、莫大なお金がかかる。
治すためには、お金が必要で。
「お母さん達も、本当は傍にいたいって思ってる。分かってるの·····。でも、侑李の治療は今の病院でしかできなくてっ、お母さん達は異動できないしっ、お金のためには辞めるわけにはいかない!お母さん達の仕事場の近くには、侑李を診てくれる先生がいないから!」
「·····うん」
「みんな、侑李の事、大事にしてる·····。分かってるの·····私だけじゃないってこと。家族みんなが侑李のこと、大好きなのは分かってる」
「うん」
けど·····
私が3人は何もしてない、侑李の事を大事にしてないって思わないと。
なんで私ばっかりって思ってる自分に嫌気がさしてしまうから。こんな感情を持ってる自分に·····、腹が立って仕方ない。
「和臣·····」
「ん?」
「あたし·····優しくないよ·····」
「優しいよ」
「優しくないよ、私、本当は、侑李のこと·····大っ嫌いだったもん·····」
「密葉·····」
「私ね、昔、侑李を殺しかけたんだよ」
「··········」
「それでも好きだって言ってくれるの?」
怖くて、和臣の顔を見れなかった。
けど、私は口にする。
何年も前のこと。
私がこうなってしまった原因を。
そう言われて、顔が赤くなるのが分かった。
恥ずかしくて、咄嗟に顔を下に向けた。
その瞬間、撫でれる頭·····。
なんともいえない感情が芽生え始める、やめてと言わなきゃいけないのに、和臣の手が心地よくて。
「飯、食ってねぇんだって?」
「·····」
「なんで食ってない?」
兄から聞いたのだろう。そうとしか考えられない。だからって、どうして和臣に話す必要があったの。
「お兄ちゃんになに言われたか知らないけど·····、ちゃんと食べてるよ」
「じゃあ今からラーメンでも行くか?」
「え?」
「食ってんなら、それぐらい食べれるだろ?結構美味いとこ知ってるから」
ラーメンって·····。
「行かない·····、デートみたいな事しないから」
「弟が食べないからか?」
落ち着いた声で喋る和臣。
そっと和臣を見あげれば、真剣な顔つきの和臣がそこにいて。暗闇の中でも光るピアスが、目に入った。
「弟が大事なことは分かる、密葉を見てれば、すげぇ大事に思ってるんだなって。可愛いしなニコニコ笑ってて」
私が侑李を大事に?
「俺も妹いるけど、もし妹が病気になったら、今と違う接し方っつーか·····、今も家族として大事に思ってるけど、大事の仕方が違うと思う。密葉みたいに、ずっと一緒にいてやりたいって思うし」
和臣の言いたいことは、何となく分かる。
私も家族は大事。兄も両親も大事だけど、侑李を‘大事にする’というのは意味が違ってくる。
家族は、離れていても大事な存在。
侑李は、近くで守らないといけない大事な存在。
「でも、いざとなったら、俺はそういう行動移せんのかって思うんだよ。ずっと一緒にいてやれるのかって」
「··········」
「病気の妹のために、族をやめれるか? 学校をやめるか? 友達と遊びに行くことも、こうして好きな女と会うことをやめれるか?って」
「··········」
「無理だと思った、いくら妹が大事でも、やっぱり限度ってもんがあるって。お見舞いとか毎日行くにしても、やっぱり遊びてぇ時はあるし、今の生活を急に変えろって言われて、そう簡単に変えれるもんじゃねぇしな·····」
「··········うん·····」
「だから、密葉がすげぇと思った。弟のために、ここまでできるんだなって」
「··········そんなこと·····」
「そういうとこ、好きだと思った」
和臣は穏やかな顔つきで、笑いかけてくる。
頭を撫でる仕草をやめない和臣は、私をジッと見つめてきて。
「初めて会った時に一目惚れして好きって思ってたけど、あん時より、気持ちは大きい。密葉の優しいところとか、涙がもろいとことか、気を使うとことか、そういうの知る度に密葉のことが好きになった」
「·········」
「だから、俺にとってすげぇ大事な存在なんだよ、密葉は」
「··········」
「今も、これからも、変わらない。ずっと密葉のことを想ってる。密葉が思ってるより、本気なんだよ」
撫でていた手は、ゆっくりとおろされ、私の頬を包んだ。
「だから、雨に濡れたら風邪ひかねぇかって心配するし、痩せてたら、ちゃんと食ってんのかって心配する。密葉が弟を思うみたいに、俺だって密葉が心配でたまらない」
「··········」
「言ってる意味、分かるか?」
和臣にとって、私は大事な存在。
私が侑李のことを思うように·····。
「分かんねぇなら、ずっと同じこと言い続けるけど」
分かるよ。言ってる意味は分かるの·····。
和臣の告白が嬉しくてたまらない。和臣がどれだけ私を心配してくれてるのかも。
「··········密葉?」
涙が頬を伝う。
和臣の指先が、涙を拾い。
「あたし·····、間違ってるの·····?」
声が震える。和臣に伝わっているかさえ分からない。
「どうしてそう思う?」
「だって·····、だって··········」
本当は、兄の言っていることを理解しているから。侑李と同じように食べないことだって、学校へ行かないことだって、本当はしてはいけないって分かってるの。
自分でおさえているだけで、我慢してるだけで、本当はお腹がすいてたまらないのに。
お腹がすいて、苛立つこともあって、栄養が足りてないからすぐに息切れもして。
このままじゃダメ·····って分かってた。
だけど、
「どう、すればいいの··········」
「密葉」
「私は侑李が大事で·····!私が、私が、侑李のためなら何だってするって決めたの·····!」
「なんで密葉だけなんだ?大和もいるだろ?大和と一緒に弟を支えていけばいいだろ?」
「ダメっ、そんなの、私がみないといけないのっ!」
泣きじゃくる私を、落ち着かせるように和臣が背中を撫でてきて。
「ゆっくりでいいから、なんで密葉だけか教えてくれ。大和がダメは理由はなんだ?」
兄がダメな理由?
そんなの、いつもいつも遊んでばっかりいるからっ。全然病院も来ないから!
「お兄ちゃんは、全然お見舞い来ないっ!」
「うん」
「家事もっ、私がしないと!お兄ちゃんは全然家に帰ってこないし!私がするしかっ·····」
「帰ってこねぇの?」
「そうだよ!夜もすぐどこか行くし、朝帰りが当たり前だし!」
息が切れる。
「お母さん達だって、すぐに行っちゃう·····。お父さんも·····、侑李の事を心配してるのは、私だけなの··········」
「そうか·····」
「だから·····あたし一人で·····」
本当に?
本当に、そうなの?
兄は·····、両親は·····。
侑李の事を大事にしてないって言える?
侑李が発作で意識を失った時、すぐに駆けつけた両親。そして泣く私をずっと支えてくれた兄が·····、侑李を心配してないと?
‘おねぇちゃん·····行かないで·····’
「ほ、んとは、知ってるの·····」
「なにを?」
「ほんとは、お兄ちゃんが、ずっとバイトしてるの知ってるのっ·····、遊びに行ってないこと、知ってるの!!」
「うん」
「ずっと、寝る間もおしんで、侑李の入院費とか、手術費用、貯めてるの知ってるの!」
「うん」
「知らないふりしてるだけっ、だって、そうしないと、私が何もしてないみたいになっちゃうからっ!」
侑李の病気の治療は、莫大なお金がかかる。
治すためには、お金が必要で。
「お母さん達も、本当は傍にいたいって思ってる。分かってるの·····。でも、侑李の治療は今の病院でしかできなくてっ、お母さん達は異動できないしっ、お金のためには辞めるわけにはいかない!お母さん達の仕事場の近くには、侑李を診てくれる先生がいないから!」
「·····うん」
「みんな、侑李の事、大事にしてる·····。分かってるの·····私だけじゃないってこと。家族みんなが侑李のこと、大好きなのは分かってる」
「うん」
けど·····
私が3人は何もしてない、侑李の事を大事にしてないって思わないと。
なんで私ばっかりって思ってる自分に嫌気がさしてしまうから。こんな感情を持ってる自分に·····、腹が立って仕方ない。
「和臣·····」
「ん?」
「あたし·····優しくないよ·····」
「優しいよ」
「優しくないよ、私、本当は、侑李のこと·····大っ嫌いだったもん·····」
「密葉·····」
「私ね、昔、侑李を殺しかけたんだよ」
「··········」
「それでも好きだって言ってくれるの?」
怖くて、和臣の顔を見れなかった。
けど、私は口にする。
何年も前のこと。
私がこうなってしまった原因を。