「でも俺、日本語は好きだよ。」

「はあ……」

憧れを打ち砕かれた今、何を聞いても心には届かない。

「日本語の繊細さとか、響きの美しさ、奥ゆかしさとか。一人でも多くの人に知って貰いたい。芽依達に授業していた時も、それだけは伝えようって俺なりに頑張ってたつもり。」


ふいに先生の授業が、目に浮かんだ。


『この言葉、いいだろう?これが日本人らしさなんだ。』


よくそんな事を私達に言っていた。

「あの時の俺に、嘘はないよ。確かに俺はあの一年。国語の教師だった。それだけは胸張って言える。」

「先生……」

改めて先生には、『先生』って言う呼び名が似合うと思った。

私達は確かに平塚先生の、教え子だったんだ。

「だからなのかな。日本人らしい話を書きたいよ。それが小説書き始めた理由。これでいいかな、芽依ちゃん。」

「はい。」

完璧な答え。

この時はそう思っていた。

「さあ、海に着いた!」